日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『指定暴力少女 しおみちゃん』

『指定暴力少女 しおみちゃん』 第1巻
井上和郎 小学館 ￥444+税
（2017年2月10日発売）

塩見巌（しおみ・げん）。
56歳の中年にして国内最大の暴力団「一ツ橋組」の四代目組長となった男。
簡単にいえば、日本一のヤクザである。

今、その大物ヤクザに危機が迫っていた。
塩見がトップにつくことに反対していた下部組織が反乱を起こし、はげしい抗争が幕を開けたのだ。
敵はヒットマンを放ち、塩見の命を狙ってくる。
そこで、顔から身体まで外見を大きく変える整形手術を受けることになった。

手術を手がけたのは、某手塚治虫キャラそっくりの非合法医師。
神の手を持つと評判の天才ドクターだ。
ところが、この闇医者、たしかに天才だが、同時に変態でもあった。
自分の手で、大好きな女子中学生アイドルそっくりに人を作り変えてみたいという願望に燃えていたのだ。
そして、こともあろうに、塩見がその願望の素材とされてしまう！

「なんじゃい　この姿は―――――っ！！」

かくして、見た目はJC・頭脳はGD（極道）……塩見巌あらため「巌（いわお）しおみ」が誕生した。

ご丁寧にチ●コまで取られて完全な美少女中学生へと性転換させられた塩見。
部下のすすめで偽装を完璧にするため中学校へ通い始めるが、中身はヤクザのおじさんなので、常にややこしいシチュエーションが巻き起こる。

悪さするチンピラどもをボコボコにして同級生の男子を助けたら、そのかわいさとかっこよさから惚れられてしまったり。
昔つきあっていた女性がひそかに生み育てていたじつの息子が同じクラスに転校してきたり。
さらに、その息子が「しおみちゃん」の強さをみこんで、まだ会ったことのない父親・塩見厳を殴り飛ばす計画の仲間に誘ってきたり……。
ほんとややこしいな!?

単行本は第1巻が出たばかりだが、「中年ヤクザが美少女の肉体を備える」という設定のポテンシャルをフルに活かすエピソードがてんこもりである。
個人的イチオシは、整形のモデルであるアイドルと勘違いされてグラビア撮影現場に連れていかれる第3話「仁義なき撮影」。
塩見が自分の写真うつりのよさに感動して「ワシは…世界一カワイイんじゃあ!!」と“その気”になってしまう姿に、むしろ中身のおっさんのほうがかわいいと思えてくる回だ。

また、収録されるのは次巻以降となるが、敵組織が放った殺し屋と対決するハードな筋も進行中。
男／少女という性を行き来するタテ軸に、学園生活とヤクザ抗争という日常／非日常のヨコ軸がからみあって奥深いつくりになっていく。
もっというと、塩見にとっての日常とは本来ヤクザ世界のほうだというのも、倒錯をより複雑にしていておもしろい。

そんな本作の著者は、井上和郎。
コワモテ少年の右手があどけない女子高生になるという奇想を感動的な青春劇へ昇華させた『美鳥の日々』や、ひとり1フェチ属性を持つヒロインたちがひしめく『あいこら』など、一筋縄ではいかないアプローチが魅力だ。

その井上先生が昔描いた短編に『葵DESTRUCTION!』という作品がある。
童顔をとおりこしてロリかわいい父親（38歳）に高校生の息子がムラムラ心乱されるという、非常に攻めた内容だった。
『指定暴力少女 しおみちゃん』でも、塩見の部下が「しおみちゃん」の中身がおっさんなのを承知のうえでドキドキしてしまう場面がある。
既作の息づかいが進化形として新作に感じられるのが、ファン視点でうれしいところだ。

＜文・宮本直毅＞
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』（総合科学出版）。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7