日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『RYOKO』
『RYOKO』 第1巻
三ツ橋快人 小学館 ¥429+税
(2017年2月17日発売)
きょうの夕食は野菜スープ。
必要なのは、ジャガイモ、ニンジン、etc.……。
ひとりの女の子が町なかへお出かけしては、ごはんの材料を手に入れて家に帰ってくる。
食材をさっそく調理し、父や弟と食卓をかこんで、なごやかに家族団らん。
さて、明日のメニューはどうしようかな。
という具合に、ある一家族の日常のかたちを描くのが本作の大筋だ。
ただし。
女の子は、日本刀をたずさえ、高度な戦闘術を身につけた凄腕の狩人である。
そして、食材はすべて、目や口、手足が生えて、人間よりひとまわりもふたまわりも大きなモンスターと化した野菜や肉類である。
おたけびを上げ、アスファルトの道路をひと踏みで砕くほどの力をほこる巨大ニンジン!
しかし少女は涼しい顔でひょいととびかかり、あざやかな剣さばきで斬りふせる!
導入はインパクト抜群。
最初の数ページ読んだだけで、これがどんな作品かというのをバシッと伝えてくるのがすばらしい。
ことの発端は数年前。
食糧自給率を高めるため、政府がなんらかの薬を食材に投与するも、大失敗。
自我をもった生鮮食品たちが人々を襲いだし、日本は壊滅の危機に陥った。
主人公・料子の住む町もまた「食材」に襲われ、人がいなくなってしまった。
廃墟だらけのご近所で、生き残っているのはもはや彼女とその父・弟だけかもしれない。
正義感の強い警官だった母親は、自分たちを守るため戦い、討たれた。
しかし料子は、あきらめない。生きることを、そして日常を。
きょうも明日もこの町で、家族を支え、料理をつくっていく。
その決意は、どんな恐ろしい食材を前にしてもゆるがない。
第1巻では、食材たちのなかでも特に危険な、ミノタウロスめいた「黒毛A5和牛」との対決がハイライト。
母の仇である「黒毛A5和牛」と対峙して、自分が何のために食材狩りをするのか自分自身を見つめる料子の姿には、悲惨な世界設定のなかでもさわやかな人間味が光っている。
食とモンスター狩りを一致させたマンガといえば、美食・珍味の追求をワイルドな秘境冒険に乗せた『トリコ』、ハイファンタジー世界の生物の調理法をロジカルにシミュレーションした『ダンジョン飯』などがある。
対して、『RYOKO』は「野菜」、「肉」、「米」など現実に身近な食材を大胆な描写で飾りつつ、ひとりの女の子のひたむきさに焦点をまとめたバランス感に独自の立ち位置を持っている。
「週刊少年サンデー」が改革路線をかかげて以降に始まった新連載のなかで、とりわけ注目に値する一作だ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7