設定はあえて細かく決めないのが五十嵐流
──先ほど世界観について「一応、もっともらしい設定は考えている」とおっしゃっていましたが、連載前からかなり設定は細かく決めていたんですか?
五十嵐 そうでもないです。最初に考えすぎると、いつまでも「ああでもない、こうでもない」と練っちゃうので、始められなくなっちゃうんですよね。だから思いきって始めないことには、始められないんです。
──それはご自身に完璧主義的なところがあって?
五十嵐 不安なんです。(設定を)決めずに描き続けるのって、途中でつじつまが合わなくなるんじゃないか、って不安があるんですね。そういう時は「ちょっとなぁ……」と思い悩んじゃうんですけど、それをやっているといつまでもできないので。
──じゃあ、そんなにカッチリと決めているわけではない?
五十嵐 ある程度、ですね。やっていくうちに変えられる余地は残しておきます。
──ストーリーはどの程度先まで想定していますか?
五十嵐 うーん、これまでは「描きたいシーン」があって、そこに向かっていくというのはありました。『ディザインズ』に関しては、「こんな感じのストーリー」というイメージがあって描き始めたんですが……、第1話の段階でその構想からズレちゃいました(笑)。
──それはどのあたりですか?
五十嵐 第1話で森のなかでの戦闘シーンが続くじゃないですか。あれは6ページくらいで「こんなことがありました」と伝えられればいいと思っていて、すぐに話の本筋に入ろうかと思っていたんです。ところがあそこにハマっちゃって、そこから最初の構想が崩れちゃいました。
──その理由って、なんでしょう?
五十嵐 描いてて楽しかったんです(笑)。
──なるほど(笑)。
五十嵐 なるべくシンプルにしようとやっているんですけどね。
──人間と動物が融合したデザインをするのは楽しい?
五十嵐 それはもう楽しい。
──どういう動物が楽しいですか?
五十嵐 できるだけ形が変な動物のほうが楽しいですね。あと、動物園に行って「かわいいな」と思った動物は、描きたくなります。
──ヒョウみたいなネコ科の動物は絵的に映えますね。
五十嵐 ネコ科はそうですね、動物の感覚を出すにはアクションがいちばん向いてますからね。
──人間に近い動物はあんまり考えていないんですか?
五十嵐 人間に近い、というと猿とかですか?
──種として人間に近い猿とかもそうですけど、人間の生活圏に住んでいる犬とか。ディズニー映画の『ズートピア』にも、人間に近い動物は出てきませんでした。
五十嵐 それはむしろ違うからおもしろいんですよ。
あんまり人間に身近な動物は、動物の世界では扱いづらい。『ディザインズ』にはいまのところ出てきていませんが、おそらく犬は人間化しないんじゃないかなぁ。いまの犬の能力でも、じゅうぶんに人間とコミュニケーションが取れますからね。犬は犬のままで、人間と一緒に働けている。だからこれ以上人間に近づける必要がないので、そういう意味では、人間に近い動物をあえて人間化するのはあんまり意味がないんじゃないかな。
──今作では「環世界」[注1]という考え方もひとつのギミックになっています。
五十嵐 もともとその言葉は、犬についての本を読んでいる時に出てきたんです。
──動物は種特有の知覚世界を有している、というのがおおざっぱな説明ですね。
五十嵐 視神経と脳のつながりの関係で、犬のほうが人間より0.5秒くらい物が早く見えているそうなんです。それに嗅覚がすごくて、匂いでものをとらえている。
──人間と動物は、まったく違う感覚でこの世界を知覚している、と。
五十嵐 もともと人間と動物の感覚の違いというのは、むかしからテーマ的に興味があったんですが、それが半人半獣と結びついて『ディザインズ』で活かされたわけです。
──時間の感じ方も動物ごとに違う?
五十嵐 それはだいぶ違うと思います。
──こういうところ(第1巻P.94-95)は、動物が外の世界を把握する仕方をビジュアル的に表現しようと試みているわけですよね?
五十嵐 それをまた人間的な捉え方に直しているんですけどね。
──見ているぶんには楽しいんですが、それは……たいへんそうですね。
五十嵐 いや、まぁ、すごく楽しい部分ですよ。
──ちなみに先生が好きな動物は?
五十嵐 え、なんだろう?
──カエル以外で。
五十嵐 うちで飼っている猫ですね。犬派か猫派かで言えば犬派なんですけど、うちで飼っている猫は好きです(笑)。
- 注1 環世界 ドイツの生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した生物学の概念。すべての動物はそれぞれに種特有の知覚世界をもって生きており、その主体として行動しているという考え。
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3月27日公開の後編では、五十嵐先生の独自のマンガの描き方や、漫画家デビュー秘話、さらには2巻の見どころや同時発売の短編集についてなど、まだまだ五十嵐先生にお話をうかがっていきます!
大ボリュームでお届けする後編をお見逃しなく!!
取材・構成:加山竜司
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