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【インタビュー】藤田和日郎『双亡亭壊すべし』 そのタイトル変えるべし!? 初期タイトル案『あの家を壊せ』が、『双亡亭壊すべし』になるまで!!

2017/04/24


満を持しての「ホラー」! 第1話の誕生秘話!!

──もともとホラーはお好きなんですか?

藤田 そう。だけど今まで描いたことなかったんですよね。厳密には今回の『双亡亭壊すべし』も、ホラーとはだいぶ変わってしまったんですけど。俺ね、河合克敏さんと友達なんですけど、河合さんが以前『引っ越し』というホラー短編を描いたことがあるんですよ。

──河合克敏先生といえば『帯をギュッとね!』『モンキーターン』『とめはね! 鈴里高校書道部』など長期連載が有名ですが、短編もあるんですね?

藤田 それがすごくおもしろくて、俺は電話口で河合さんにワーーっと感想をいったんですよ。でもいっている最中に「俺はホラーを描いたことがないのに、河合さんに批判的なことをいってないだろうか?」と、はたと気づいたんです。だから「ごめん河合さん、俺もいつかホラーっぽいものを描くから、その時は文句いって」って謝ったんですよ。それが『からくりサーカス』を連載している時だったかな?

──今回、満を持してホラーを描いたわけですね。

藤田 だからいまは河合さんの感想待ちです(笑)。「キツイこといってね」といってますから。

──ホラーは、その怖さの原因=謎を知りたいという欲求が生まれます。

藤田 そうですよねぇ、のぞいてみたくなりますよねぇ。

──『双亡亭壊すべし』では、最初に「双亡亭に関する謎」と「青一に関する謎」が提示されます。3巻までの段階では、「双亡亭に関する謎」については少しずつ明らかになります。そうなると「青一に関する謎」に興味が湧きますが。

藤田 そうですね、4巻あたりからそのベールが剥がれていくんですが、俺としてはそこがいちばん心配なんです。

──心配というと?

藤田 「青一に関する謎」に関しては、ホラーだけじゃない要素が入ってきます。もしかしたら、そのことで読者にガッカリされるかもしれない。いや、そうならないように一生懸命描いたつもりなんですけど……。「ホラーと思ったら違う?」「やっぱりホラーだ」みたいになるので、読者には「あいかわらずあっちこっち引きずり回して、ごめん!」と思ってます。まだ先の話だから、奥歯に物がはさまったようない言い方になるのは許してね(笑)。

突如出現した45年前の飛行機から現れた謎の少年、青一。彼の秘密と双亡亭の秘密はどこで交わるのか?

突如出現した45年前の飛行機から現れた謎の少年、青一。彼の秘密と双亡亭の秘密はどこで交わるのか?

──物語の冒頭から大きな謎をふたつも提示することに対して、読者がついてきてくれるかどうか、連載開始前に不安はありました?

藤田 それはもう、ありましたよ!! だって第1話はね、一度編集さんに見せて、編集長からもOKをもらっていたのに、うちのアシスタントたちに見せた時に「うん? なんか反応悪いな」と思ったので、もう1回別バージョンのネームを描いたんですよ!

──描き直したんですか?

藤田 2種類のものを用意して、それぞれ描き直してるんです。1巻のオープニングを飾る第1話なんだから、やっぱり心配ですよ!

──その別バージョンって、どんな感じでした?

藤田 主人公にもっと寄せたようなものでした。主人公に超能力がある……というか、もっと強い感じだったんです。敵ももっとわかりやすい奴が出てくるパターンで。

──ただ、結局はいまの形に落ちつきました。その理由は?

藤田 編集さんが「これで大丈夫だから、これでいきましょう!」といってくれたので、編集さんがOKを出してくれたものを採用したんです。俺としては、この第1話は現象のつるべ撃ちとというか、不思議不思議の連続で、読者はついてこれないんじゃないか、と。第1話なので、ついてこれるもへったくれもなくて、ワケわかんないんじゃないかと心配だったんです。だけどトンがっていたのはむしろ編集部のほうで、「大丈夫です、これでいきましょう。おもしろいですよ!」って、なんの不安感もなくいってくれちゃうんですよ(笑)。

担当 いやぁ、大丈夫ですよ(笑)。

──攻めの姿勢ですね、「サンデー」編集部。

藤田 こっちはさぁ、「マンガは3ページ目までに主人公を出さなきゃいけない」とか「主人公を前面に押し出せ」とか、新人のうちからコッテリ仕込まれているんですよ。それが今作では、主人公が出てくるのはだいぶ後になってからですからね。

──主人公は凧葉務、ですよね?

藤田 そう。でも読者からしたら、ほかの登場人物に紛れてしまって、どれが主人公なのかわからない始末。

特別な力もないし、どこにでもいそうな青年・凧葉務。第1話ではモブキャラと同じような反応もあって、まだ主人公っぽさはない。

特別な力もないし、どこにでもいそうな青年・凧葉務。第1話ではモブキャラと同じような反応もあって、まだ主人公っぽさはない。

──でも先生の杞憂をよそに、読者の反応は好調なようですね。

藤田 そうねぇ、読んでくれる方は読んでくれるんですよねぇ。もしかしたらね、「読者が振り落とされないだろうか?」とか「新しいやり方だからソッポ向かれちゃうんじゃないか?」と思うこと自体が、読者に対して失礼なのかもしれませんね。

──それは先生と読者のあいだに、すでに信頼関係が成り立っているからじゃないですか?

藤田 そっか、そっか。それは非常にありがたいですね。ありがたいことなんですけど、じゃあ「新人がこういう第1話を描いたらアウトだったのか?」という感じはあります。俺はね、つねに読者に「こんにちは」をいいたいんですよ。「こんにちは、藤田和日郎という者です。これから始まる物語はコレコレこういうものです。物語が最後に着地する際には、みなさんに満足してもらえるはずです。それではみなさん行きますよ、バスに乗りましたか? それでは発車します、どうぞごゆっくり」と。

──読者に対して挨拶をするような導入部、ということですね?

藤田 顔見知りの人にだって、朝顔を合わせたら「おはようございます。今日はいい天気ですね」って挨拶するでしょ?

──なるほど。

藤田 それをやらないと、読者をもてなすマンガではないような気がします。「いままで藤田和日郎が描いてきたマンガは最後までたどり着いているから、じゃあちょっと読んでみようか」という信頼関係があるのは、マンガ家としてはたいへんうれしいことですけど、ファンの方たちは俺がある程度ミスをしても「まあリカバリーするだろ」「『からくりサーカス』の時もなんとかなったから大丈夫だろ」って優しく見てくれるところがあるんですけど、それって甘やかされている気がしません? じゃあ信頼関係の築けていない読者にこれを楽しんでもらえるのだろうか? 映画マニアじゃない普通の人は、映画を見る時にいちいち監督の名前なんて気にしないですよね。信頼関係のない人間にも楽しんでもらうことも、マンガ家の目的というか、求められることですから

──甘え、ですか?

藤田 だってさぁ、『サザエさん』は誰が見ても楽しいじゃないですか! 高橋留美子先生だってあだち充先生だって、いつ読んでもおもしろいじゃないですか! 人に理解を押し付けないというか、どんな読者が読んでも、その一編がおもしろい。こういうい言い方をしたらおこがましいかもしれないけど、「少年サンデー」というメジャー誌で連載するうえでは、みんなをウェルカムすることが大事なんです。それはやろうと思ってできることではないけれど、なるべくそれをやりたいんですよ。だから『双亡亭壊すべし』ってどうなんでしょう。どう思います?

――いや、先生。われわれはすでに先生を信頼している側の読者ですよ(笑)。

藤田 そっか、そうですよね。そこはありがとうございます(笑)。でもね、これは俺の個人的な価値観なんですけど、初対面の人さえ引きずり込む力を持っているのがマンガのすごさなんじゃないかと思うんです。キミらも「このマンガがすごい!」という看板を掲げている以上、どういったマンガをすごいと思うのか、それぞれに価値観はあると思うんですけど、俺の思う「すごさ」はそこなんですよ。藤田和日郎が過去に描いた作品をまったく知らない子が読んで、「おもしろかったよ」といってくれるのがいちばんうれしい。

――藤田先生を知らない人間の感想は、われわれのようなマンガ・ファンからは出てこないですよ。それこそ編集部に届く読者の声のほうが、まっさらの意見は多いと思います。どうですか、読者の声は?

藤田 おお、それをここで聞くのか!(目をつぶって天を仰ぎ見る)

担当 「話がわからない」なんて声はないですよ。

藤田 ……よかったぁ〜(安堵の溜息)

担当 藤田先生のすごいところは、毎回テンションが落ちないところだと思っています。これは以前声優さんが話していたことですが、プロに必要なことは何回テイクを重ねてもテンションを落とさないことだそうです。たとえば怒りの芝居にしても、リハーサルを繰り返しているうちに、怒りが緩和されてはいけない。毎回そのテンションを出す。マンガ家も同じことだと思っていて、みんな処女作はいちばんテンションが入るんです。でも、だんだんとやりたいことはなくなっていくし、テクニックも身についていくので、テンションは落ちていくんですね。ところが藤田先生の場合は、『うしおととら』をやっていた時と今を比べても、全然変わらないと思います。だから新規の読者でも入ってこれると思うんですよね。

藤田 テンションか……。俺の場合は空元気ですね!

──空元気なんですか?

藤田 マンガ家ってさ、編集さんさえ許してくれるなら、いくらでもハードル低くしても存在できちゃうんですよ。「一部の人だけ読んでくれればいい」とか「自分が満足できればいい」とかね。でもそれだと新鮮味がないし、新しいものが出てこない。だから俺はちょっとずつハードルを高くしていって、自分に対して刺激を与えて、空元気を振り絞ってマンガを描いているんです。

担当 あと、これはうちの編集長がいっていたことなんですけど、『双亡亭壊すべし』は、これはもう「双亡亭」自体が主人公なんだ、と。「双亡亭」のキャラが立ちきっているので、主人公のキャラを立てる必要はない、これはもうマンガとして成立しているんだ、とのことでした。

藤田 なるほどなぁ。映画にアバンてあるじゃないですか。

──『007』シリーズにありますね。タイトルの前にある導入シーンですね。

藤田 自分のなかでこの物語に、第1話を使ってアバンをつけたのかもしれません。読者に「そう思ってほしい」とは、かっこ悪くていえないですけど。

これでもかと事件が起こる第1話。見開きでタイトルが入るカットはたしかに映画的。

これでもかと事件が起こる第1話。見開きでタイトルが入るカットはたしかに映画的。

──でも第1話は見せ場が近いところで連続していて、ものすごくギュッと詰まっている感じがします。これは週刊連載の密度じゃないな、と。

藤田 そりゃあ、がんばってますからね(笑)。やっぱり少年誌だと、少しでも気を緩めたら読者の心が離れてしまうと、それくらいの緊張感があります。読者を怖がる気持ちは忘れたくなくて。連載が長くなると忘れちゃうんですよ、「これくらいは待ってくれよ」とか「これくらいは大丈夫だろ」みたいに。

──先生はそれを〝甘え〟と感じているんですね?

藤田 うーん、それも字面にするとかっこいいから、イヤだなぁー(笑)。うちのアシスタントには〝貯金〟っていう言い方をしてるんですよ。たとえばハリウッド映画にしても、最初に派手な爆発があって、それから「なぜあの宇宙人は地球にやってきたんだ?」という謎があって、それから日常パートに入るじゃないですか。ウィル・スミスあたりの退屈な日常をみんな我慢して見ていられるのは、最初のアバンで派手なものを見せられているから、その期待感があればこそなんですよ。でも退屈な日常が続けば続くほど、その期待感の〝貯金〟がどんどん減っていく。

──ただ、どうしてもストーリー的に、読者に負荷をかけるというか、待ってもらわなければならない展開もありますよね?

藤田 そう、そのためにできるだけ〝貯金〟をしておきたいんです。そのぶんクライマックスでは盛り上げるから、〝貯金〟を使う時には使う。そういう〝貯金づくり〟が『双亡亭壊すべし』の冒頭にはあるかなぁ。

──ホラーですと、とくにその「待ってもらう部分」がありますよね。

藤田 そこの焦らしが必要なんですよねぇ。ひょっとしたらホラーは、全力疾走が常の少年マンガには、向いていないのかな? でもさ、ホラーはおもしろいんです。それがやりたくて描いている部分もありますからね。

──最近でも『イット・フォローズ』とか、新しい感じでしたね。

藤田 ああ、あれもよかったですよねぇ。いろいろな種類のホラーが出てくるといいですよね。みんなもっとホラーやればいいのに!

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『双亡亭壊すべし』 第4巻
藤田和日郎 小学館 ¥429+税
(2017年4月18日発売)

5月1日公開のインタビュー後編では、『双亡亭壊すべし』の新しい主人公像などについてさらに深く聞いちゃいます! 今回のインタビューでも触れられていた、今回の主人公・凧葉のキャラクターづくりに秘められた思いとは……!?
最新第4巻、そして『双亡亭壊すべし』を200%楽しためには、絶対読むべきインタビューです!!  後編も、お見逃しなく!!

取材・構成:加山竜司

藤田和日郎先生の『双亡亭壊すべし』
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