「不老不死」の設定で「読者をドン底にたたき落とす」!?
――pixiv公開の「半年くらい前には思いついていました」とのことですが、どういったところから作品の着想を得たんですか?
山うた pixivで、ある版権物の二次創作のイラストを見ていたんですよ。それは既存のキャラを不老不死化した設定のイラストだったんです。それ自体に影響を受けたわけではないんですけど、「不老不死」というキーワードはスッと入ってきて、「不老不死設定っていいなぁ」「わかるー」「萌える」みたいな。
――不老不死は萌えなんですか?
山うた 萌えませんか? 不老不死設定で読者をドン底にたたき落とすにはどういう話がいいかなぁ、と仕事しながら想像してたんですよ。
――仕事中になんてこと想像してるんですか(笑)。
山うた 立場上はフリーランスだったんで、納期さえ守れば何をしててもいいようなユルい職場だったんです。
――ちょっとその、「ドン底にたたき落とす」っていう不穏な発言についてお聞きしたいんですけど……。
担当 いちばん最初に山うたさんにお会いしたときに「どうしてこういうお話を描いたんですか?」と聞いたら、「人の頭をバットで殴りたいんですよ」とかいうんですよ。
――……。
担当 「表現でたたき割りたい」ということだったんですけどね(笑)。
――編集サイドとしては、pixivに上がった作品を読んで、どのあたりに手ごたえを感じたんですか?
担当 今の話にも関連しますが、やはり読者を絶望に落とす具合の描き方がすごくよかったんです。実力が飛び抜けているな、と。しかも「続きを描くかも」と書いてあるから、それならぜひうちで……と。
山うた 本当はたいして考えてなかったんですけどね(笑)。
担当 釣られましたね(笑)。ただ、お話の構成力、タイトル、最後のひと言、それから中身の構図のよさ。これは天才だな、と。とくに陰影の取り方がすばらしいですよね。光の使い方に才能を感じました。
山うた 陰影のつけ方は、大学時代は映像学科だったので、そこでの経験が生きたのかもしれません。
担当 セリフでガンガン読ませていくとか、絵をバンバン見せていくタイプのマンガではないんですけど、非常に映像的で、大人も楽しめるような作品だなと思います。
――ちなみにタイトルはどうやって決めたんですか?
山うた 「兎はさびしいと死んじゃう」っていうじゃないですか、そこからシンプルに決めました。最後まで読み終わってから振り返るとわかる感じがいいなぁ、と。
広島取材を通じて生まれた 広島編での表現
――第2話以降の展開は「今とは全然違う話でした」とのことでしたが、最初はどのような話を想定していたんですか?
山うた あまりにもつらくて、すずが記憶をなくしちゃう……みたいな話です。咲朗とはまた会えるんですけど、すずが覚えていない、という展開をぼんやりと考えていました。
――それが今の話になったのは?
山うた 広島に行った経験が大きいです。
――広島には取材で?
山うた そうです。最初は担当さんから「主人公が広島弁を使っているなら広島に行ってみれば?」といわれて。
――第1話時点では、とくに広島というバックグランドは描かれず、ただ広島弁を使っていますね。
山うた 最初は「広島弁」という意識はなかったんです。あれは歌舞伎とかにある「老人語」といって、それは説明すると長くなるんです。 けど、広島弁とルーツがいっしょなんですよ。すずは不老不死の398歳なので老人語でしゃべらせていたんですけど、中途半端な老人語を使うよりは広島弁のほうがいいな、と。第1話では回想シーンに戦争の焼け跡を描いたんです。それはすずが戦争を経過した人だと示したかったからなんですけど、そこも広島に通じる部分だな、と思いました。
――広島への取材はどうでした?
山うた 行ってよかったです。1巻のラストですずが広島駅に降りた時に、そこが広島かどうかわからなくなる感覚は、自分が新幹線を降りたときの感覚なので、これは行かないとわからなかったですね。広島平和記念資料館の近くで説明してくれた人は、当時と変わらないのは山と川の位置くらいだ、といってました。
――「広島編」のランドマークとして、福屋百貨店が出てきます。
山うた 原爆ドームだとイメージがつきすぎているので避けました。福屋百貨店さんは当時は被災して救護所になったりして、今もお店として町のなかにあるわけですから「再生」のメッセージ性が強いかな、と。
――戦争を題材にするのって、大変ですよね?
山うた 私、学生時代は歴史が全然できなかったので、やるとなったら資料をイチからガーッと集めて勉強したんです。一カ所、コミックスにする時に修正したところがあって……。
――それはどこでしょう?
山うた 「広島型原爆(リトルボーイ)」が投下されたところです。雑誌に掲載された時には、もう少し下に向いた感じで描いていたんですけど、実際に投下する際には、飛行している戦闘機と並行に落とさないといけないと気づいたので、そこは修正しました。
――ディテールにこだわってますね。
山うた 戦争を題材にした作品だと貧しい時代だったと描くことが多いんですけど、それより前に戦争特需で儲かっていた時代もあったんですよね。私の場合は戦争を描きたかったわけではないので、裕福な時代と貧しい時代のギャップを描きたいという思いもありました。ただ、原爆は被害者の方もいるし、御存命の方もいらっしゃるので、変な盛り方をしないようにだけ気をつけていました。
取材・構成:加山竜司
『兎が二匹』第1巻
山うた 新潮社 ¥600+税
(2016年2月9日発売)
■次回予告
『兎が二匹』著者・山うた先生のインタビューはいかがでしたか? マンガ制作時の裏話や「人の頭をバットで殴りたい」という衝撃の言葉も飛びだしましたね!
次回のインタビューでは、山うた先生が漫画家となるまでのエピソードや、気になる新作『角の男』についてたっぷりうかがいます。こちらも要注目ですよ!
インタビュー第2弾は、9月23日(土)公開予定です! お楽しみに!
山うた先生の『兎が二匹』も紹介している
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