読者の胸をうつ、ハートフルな作品の魅力に迫る!
——「魔法自家発電」のタイトルはすぐ出てきたとおっしゃっていましたが、ほかの作品タイトルも同様に独特で、かつ作品をよくあらわしています。とくに「2人時間」はそう感じました。不思議な空間にいた2人が奇妙な共同生活を始める話ですが、後半の展開は驚きとともに、本当に涙してしまいました。この作品の創作した際のお話をうかがえますでしょうか?
谷 ヒトって、年齢に数えられてない時間があるよなと思って、そこを強調した話、どうにかならんかと思って、この「2人時間」ができました。
——最初の数ページは、状況がわからないまま読み進めました。
谷 女性と男の子の関係を、どの時点で読者の方に明言するのかはだいぶ考えました。映画のようなスクリーンを作ったり。
——子ども部屋のような不思議なインテリアは?
谷 あそこは、子ども部屋みたいものだから、こんなふうでいいか、と。
——もう話は読んでしまっているのであの不思議な部屋が何かは知っているのですが……先生のなかでは作中のようなイメージがあったというのは驚きです!
谷 あんまり特徴をそのまま描いたらすぐにバレそうだと思って。でも2ページ目で気が付かれる方は、けっこういるんじゃないでしょうか。
——2人の別れのシーンとラストシーンは涙なしには読めません。
谷 売野機子先生の『MAMA』(新潮社)の1巻に、母親が息子を抱きしめて「あごの下で髪をなぜるのが好きなの。まだこんなに幸福にしてくれるのね」というシーンがあって、そういう空気感を描きたいなと思いました。あごの下あたりに男の子の髪の毛がある、って想像したらふわふわしちゃいますよね。私には1歳と7歳の甥っ子がいるんですけど、自分の子でもないのに、なんでこんなにかわいいんだろうってくらいかわいくて。
——「2人時間」の不思議な部屋のビジュアルもそうですが、ベッドが空を飛ぶ「ソファベッド・ツアー」もビジュアルが印象的です。
谷 とにかく扉の、夜のカーテンをめくっている子どもが描きたかったんです。この絵だけがまずありました。
——舞台はアメリカ?
谷 そうです。下まつげが生えていて髪の毛がくるくるで明るい色の男の子が描きたかったので、それならばアメリカかヨーロッパだろうと。
——途中でムーラン・ルージュが登場しますが、2人はパリまで飛んでいってしまったのですね。
谷 スピード出すぎですよね(笑)。
——作中にでてくるコスモスも効いています。
谷 植物を描くのは苦手なんですが、画面をちょっと華やかにしてくれて、それでそこらへんにあって、子どもも手に入れやすそうで……ってなると、やっぱり花は便利です。コスモスはほっといても、どんどん増える花ですし。
——先生の作品には子どもが登場する作品が多いですが、なにか意識されていることはあるのでしょうか。
谷 子どもって、まだ情けないことを大人よりしでかしていないから、どんな意見を言っても様になるかと思って。何か言ったときに、「じゃあ、お前はどうなんだ」って言い返されなくてすむから。だから描きやすい。恥ずかしいことを言っても、(私が)あんまり恥ずかしくないんです。
今回、不思議だけど、かわいくて、心があったかくなる作品集『魔法自家発電』の魅力に迫りました! 創作時について話を聞くなかで、“イマジネーションの海”ともいえる谷先生の発想力こそが、谷和野ワールドの要だったんですね!
次回、さらにその谷和野ワールドへと足を踏みこむべく、先生が幼少期から影響を受けてきた作品など、谷ワールド形成のルーツについて聞いたり、なんと今後の展望について先生の口から語られる、注目のインタビューをお届けします!
取材・構成:小田真琴