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『黒博物館 ゴースト アンド レディ』藤田和日郎インタビュー 苦悩する者のために戦う天使「ナイチンゲール」ってオンナは……スゲエな!

2016/04/02


『ゴースト アンド レディ』制作秘話と 藤田和日郎流作劇術

——そもそも今回の『ゴースト アンド レディ』は、どういったところから着想を得た物語なのでしょうか?

藤田 「黒博物館」シリーズは、担当編集さんがいたからできたと言っても過言ではないです。彼はとんでもない編集さんなので、持ってくる資料が全部使いたくなるものばかりなんですよ。まず「かち合い弾」の写真からして、編集さんが持ってきてくれたものなんです。それをもとに「弾丸と弾丸が当たるってどういう状況なんだろう」「これが見つかったのはクリミア半島です」「クリミア半島と言えばクリミア戦争ですね」「あのナイチンゲールがいた戦争ですよ」「聞いたことあるけど、そんなにすごい人だったんですか?」とさかのぼるように連想していって。それこそ「サムシング・フォー」の言い伝えも、編集さんが持ってきてくれたネタです。そういったものを三題噺よろしく組みあわせていったので、編集さんと俺の二人三脚でできあがったようなものだと思っています。

このマザーグースの「サムシング・フォー」が物語ではキーポイントになる! 

このマザーグースの「サムシング・フォー」が物語ではキーポイントになる! 

——『ゴースト アンド レディ』は全28話です。これは最初からの構想ですか?

藤田 本当は「黒博物館」シリーズの前作『スプリンガルド』と同じように、単行本1冊で終わらせるつもりだったんですよねぇ。でもおもしろいからもう少し描きましょう、となって。今回は「モーニング」さんにすごくいい環境で描かせていただきました。ページ数の制限もあまりなくて、連載中には「終わるならどこでもいいよ」と言ってもらってました。

——普通はどれくらいなんですか?

藤田 普通だったら、何カ月か前に「第何号で終わらせます」と言われます。次の連載のこともあるので、相当前には言われるんですよ。おわりが決まった状態で、残された回数でなにができるかを考えながら描いていくことになります。たとえば『からくりサーカス』だったら、登場人物の名前を全部書き出して、それぞれがどういう動きをするかをメモにしておいて、チェック項目を自分で作ってまとめていきました。でも『ゴースト アンド レディ』は「いつ終わってもいい」と言われていたので、こちらとしても最終回の3~4回前くらいに「終わる」と言えばいいかな、と。だから「ここもう少しページがほしいな」とか「ここはエピソードを増やしたい」とかやっているうちに長くなっていって、ボリューム的には3冊分あるのを無理やり2巻にまとめた感じです。

——ラストの展開は、最初に考えていたんですか?

藤田 考えました。お話が短いと、それがモチベーションになるんですよ。たとえばバーベキューの串で、最後にお肉が見えていると、タマネギとかピーマンを食べられるでしょ?

——本作の「お肉」の部分とは?

藤田 それは、一番悪い奴が出てきてでっかい生霊を出すとか、でもナイチンゲールのほうが優っているとか、あるいはゴーストとレディの最後の別れのシーンとか、あと「かち合い弾」ですね。今回はそれを冒頭に出していたので、それがどうして作られたのかをラストに持ってくればよかったわけで、とても作りやすかったです。だからね、最後のおいしい「お肉」はあるんですよ。だからそこに至るまでにタマネギを刺しておくか、あるいはウインナーを刺しておくのか。最後の「お肉」をおいしく食べるには、どういう並びがいいのか。それは、やっていくうちに考えていくのかもしれません。

この物語の要となる「かち合い弾」。あるひとりの男と女の“魂のぶつかり合い”の結晶ともいえるものだった。

この物語の要となる「かち合い弾」。あるひとりの男と女の“魂のぶつかり合い”の結晶ともいえるものだった。

——その「お肉」までにあっちいったりこっちいったりのフレ幅が大きいと、われわれ読者は楽しく読めるのかもしれませんね。ただ、おわりが見えなくなっちゃうと、物語がどこにいくのかわからなくなる不安もあります。

藤田 まさにそうです。それが連載でいちばんよろしくないパターン。着陸地点を決めずに空を飛んでいるようなもの。どこにでも飛んでいけるように見えて、勢いがない。アンカーをビシッと打ちこんでおけば、そこを目指してすごい速度で滑空していける。「どこに降りようかなぁ?」なんて考えているのとは、スピードが違う。アンカーの場所は「自分が何をしたいのか」、つまり「どういう読後感を与えたいか」によって決まります。これはうちのアシスタントたちにもよく言っていることなんですけどね。だからね、最後くらいは自分で決めておかないと、絶対にそこにはたどり着けないですよ。

——長期連載作でも、かなり初期の段階でラストの絵は浮かんでいるものなんですか?

藤田 『うしおととら』の場合は、最後にとらがああなって、潮ととらの元気な声が空に響く。これが最後の「お肉」の部分ですね。それは連載開始から第6話か第7話くらいの段階で、もう決めていました。でも考えてみれば、潮という少年が、とらという妖怪と出会い、冒険して、成長していく話じゃないですか。そしたら最後に潮がもう一段成長するためには、あの終わり方になるしかないのだと思うんですよね。だから第1話で問題提起があったら、「それがどうなったのか」という形でアンカーを打ちこめるんですね。最初を見れば、最後はわかる。『ゴースト アンド レディ』は最初に「出会い」を描いたから、最後は「別れ」です。その間を埋めていくのが物語なんです。

グレイとフローも、会うべくして出会った2人。2人がすごした時間はあまりにも激しく、そして短かった。だからこそ感動のラストにつながる。

グレイとフローも、会うべくして出会った2人。2人がすごした時間はあまりにも激しく、そして短かった。だからこそ感動のラストにつながる。


今回、ついに藤田先生から『黒博物館 ゴースト アンド レディ』の制作話を聞くことができました! “バディもの”として『うしおととら』を例に今回の話を掘り下げるような場面も。しかも超貴重な設定資料集やイメージイラストも拝見することができました。

さあ、まだまだ藤田先生のインタビューはこれだけじゃないッ! さらに過去作や注目の新連載についてもお話をうかがいました! 藤田先生のインタビュー最終回は近日公開予定! ぜひこちらもチェックしてください!!

藤田和日郎先生インタビュー第1弾を見逃した方はコチラから!
『黒博物館 ゴースト アンド レディ』藤田和日郎インタビュー
「『このマンガがすごい!』は不愉快!」 インタビューは波乱の幕開け、その全容とは……!?

取材・構成:加山竜司
カメラマン:辺見真也

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