「かわいい男の子を“彼女”にする」という大発明
——日々あふれ出てくるテーマのなかで、特に描きたかったエピソードは?
鳥飼 加南さんが石原先生とつきあうにあたって……「男の人を彼女にする」っていう定義は、しゃべっている時にすごく盛りあがったんですよ。これはすごい発明だと! これで新書一冊書けちゃうんじゃないか!? と。 でも言葉で説明するのが難しくて。伝わるかなぁと思いながら描いたんですけど。
——いや、わかりますよ! 女性が「彼氏のお母さん役になっちゃう」という捉え方はありましたけど、その進化形というか。
鳥飼 お母さん役との差別化の説明が難しいんですよね。彼を守ってあげる、という立場は共通なんですけど、この場合だと女の人のほうがカッコよくないと成立しない。
——加南さんは年上ですが、年齢の問題でもないんですよね。彼氏のほうの資質も重要で、石原先生みたいに「加南さん、カッコいい」って思ったらそれを素直に口にできないと。
鳥飼 と同時に、男の子の側も自分が「かわいい」ということを受け入れないと。女はそんな男の子をちやほやしてあげる。そうしたほうがうまくいくケースがあるんじゃないか、って盛りあがったんですよ。
——絶対あると思います!
鳥飼 男性の編集さんが「男もリードするのに疲れてる」と言っていたのも、場が沸きましたね。男が責任とって最後の誘いをかける、っていう構図に疲れたって。なら女が担うしかない、女が率先してやってあげると男はよろこぶんじゃないか。つまりそうするとモテるんじゃないかという流れになって。恋愛に能動的で自分がイニシアチブをとるのがしっくりくる女子もいるであろう。男の子にもそのほうが楽だという人もいっぱいいるだろう。と、これによって新しいマッチングが増えたらハッピーになれる人も増えるのでは?
——やっぱり……おしゃべりマンガに見えて深い提言が!
鳥飼 うちのアシスタントの男の子もそうなんですが、なかなか女の子に積極的になれないらしく。本人からすると今の自分は女の子に声かけるに足りてないと。ちゃんと稼げてないし、男らしくもないし守ってあげられないと。私としてはそんなにいっぱい担おうとしなくていいと思うんだけど、男の子がまじめにそう思いこんでると「準備中」の札かかりっぱなしで、いつまでも店が開かない。そんな開店準備は不要だよって言ってあげられるような話を描きたいなと。まだうまく描けていないかもしれませんが、これは2巻の大きなテーマのひとつですね。
——男子諸君にもぜひ読んでほしいですね。
鳥飼 恋愛のことをたくさん描くと引く人が出るかもという不安はあったんですよ。男の子がいなくても楽しく生きていけますから。でも、これを描くことで、男の子、女の子両方の生きづらさを取りはらえるならと思ったんです。
——今は「かわいい」って言われて素直によろこぶ男の子、増えたと思いますよ。
鳥飼 かわいいモノ好きな男の子増えてますよね。その趣味を堂々と出してたり、カフェめぐりが好きとか。昔とはあきらかに変わっているのに、男の子がデートをリードする、プレゼントしてあげる、サービスするってことだけが残ってる風潮はなんかひっかかるなと。そろそろどっちでもいいんじゃないですか、と。
——メッセージ性、ありますね。
鳥飼 けっして押しつけたくはないんですけど……言いたいことっていっぱいありますね。
日々気になること、引っかかっていることを発信していきたい
——今、気になるのはグッと接近した悠里さんと鹿谷くんの関係です!
鳥飼 これは編集部からの声もありまして……「この2人なんとかならないんですか」と。
——悠里さんに恋をしてもらいたいという意図で?
鳥飼 「悠里さんと鹿ちゃん、アリなんじゃない?」という具体的な要望でした。
担当 編集部には圧倒的に悠里さんタイプが多いということもあり(笑)。
——リアル悠里さんたちのニーズに応えて、というわけだったんですね。
鳥飼 鹿ちゃんはこの作品のなかではいちばんのイケメンなので、出すと場が盛りあがりますしね。
——このカップリングも当初の構想にはまるでなかったんですね。
鳥飼 ないです。でも鹿ちゃんはツッコミ屋さんだから……いちばんツッコミやすいのは悠里さんなので自然と。
——ちなみに奈央さんには恋の予定は?
鳥飼 今のところないですね。何か新しいことをするにあたって、奈央さんにぴったりのことがあれば描きたいなと思います。こういうふうに恋愛を変えてみようとか、男の子の見方を変えてみようみたいな。奈央さんぽいエピソードがあれば描くだろうし、なければ描かないかな。必ずしも「恋愛=幸せ」とは思っていないし、みんなに恋をさせることが目的ではないので。
——以前のインタビューのとき、キャラクターが勝手に動くとおっしゃってしましたが。
鳥飼 『おんなのいえ』はそうでしたが、それに比べると「じごガー」はそうでもないかもしれません。じごガーは毎回テーマがあって、みんなに話をさせたいんです。きょうはこの議題で話をします、みたいな。
——なるほど。これまでに反響が大きかったエピソードは?
鳥飼 1巻発売の直後、奈央さんが合コンした時に「自分勝手なオジサンの臭いがする……」って言うシーンがツイッターで広まってましたね。「オジサン間違ってないじゃん」という声もありましたけど。
鳥飼 じつはこのおじさんにはモデルがいて……いつか描いてやろうと(笑)。
——でも、奈央さんみたいな美人でモテる子であっても「ドブス」って言われたらキズつきますよね。
鳥飼 ブスとかかわいいとかいうのを、男の人ってわりと評価軸を変えたりしませんか。ここに描いたように、自分の都合に合わなくなったらブスって言っちゃうとか。美人にすっごく残酷な仕打ちをされても「でも、あいつは美人だからな~」って、はたして言えるのかなと考えちゃったりするんですよね。女の子にもあるか、こういうことは。まあそういう評価に振りまわされずにしましょう、という教訓ですよ……とか言って(笑)。
——日々の議論から練り上げられている思想の集積から生まれる提言、すべて興味深いです!
鳥飼 『おんなのいえ』と『先生の白い嘘』を描きながらしゃべっていたことが3つめの作品になった、というすごく効率のいい作品です。1回読んだだけではピンと来ないところもあるかもしれませんが、繰りかえして何度か読んでほしい作品です。塩おにぎりなんで! 読み口は軽いので! これからもよろしくお願いいたします。
——本日は、貴重なお話、ありがとうございました。
取材・構成:粟生こずえ
カメラマン:高部哲男