『おんなのいえ』第5巻
鳥飼茜 講談社 \581+税
(2015年3月13日発売)
「女の家」という響きのタイトルで、『先生の白い嘘』の作者の作品ということで、どんなにドロドロした内容なのかと思ったら、たしかに家族の軋轢や結婚の問題が描かれてはいるものの、ドロドロにはならない。
大阪からイラストレーターになるという夢を抱いて上京してきた主人公の「ありか」は30歳を目前に、3年つきあってきた男に別れを切り出されて帰郷する。
失恋の痛手に気持ちが塞ぎこみとうとう倒れてしまった「ありか」に対して、妹の「すみか」と2人で東京に住むように母親は「命令」する。
見栄っ張りだがいろいろとうまくいかないと思っている「ありか」と、そんな姉を見透かしつつ根が優しくて思いやったりもする「すみか」の2人暮らしが、ギクシャクしながら始まる。
姉妹が出会う男たちや、15年前に愛人をつくって母親を捨てた父親など、いわゆるドロドロになりそうな存在は何人か登場する。
それぞれが微妙に隠しごとや言いよどみをしながらも、全体的には善意や誠意に忠実に、苦悩しながらも派手に動きまわるので、物語のトーンがジメジメしないですんでいるのかもしれない。
そして、最新の第5巻では、だいぶ自暴自棄というか虚無主義的になっている「ありか」こそが、じつはモテモテなんじゃないかという視点の転換が提示される。
えっ、うん、冒頭からフラれてはいたけど、3年もつきあえてる彼氏もいたし、苦悩はしてるけどいちおうリア充だったよね「ありか」さんは……とも思ったが、それを本人がどう受け止めるのかは次巻以降楽しみなところだ。
そして、お見合いを経て(お金と社会的地位目当てで)つきあうことになったモテとは無縁の大河内さんの幸せが訪れるのか否か、僕はそこが気になる。
アラサーのリアルな恋愛を描いた作品としては、かなりクオリティの高い作品。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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