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【インタビュー】柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』 SEXや恋愛ではなく生活保護がテーマ! 柏木ハルコの挑戦!!

2016/09/15


テーマをストレートに表現できた第1話がお気に入り。
今後は、えみるたちの恋愛も……!?

──この作品は、お仕事マンガとしての側面もありますよね。主人公のえみるを見ていると「この子、いっぱいいっぱいになりながらもがんばっているな」と応援したくなるというか、成長を見守りたくなります。

柏木 この作品って、ものすごくコミュニケーション能力に長けている、えみるとは真逆のキャラクターを主人公にしても成立するんですよ。たとえば、人の心を読める超能力を持った子を主人公にするとか。 だけど、生活保護を受給している人の抱えている問題というのは本当に複雑で、「だれかひとりの活躍ですべて解決!」なんてケースはほとんどないんです。その部分でミラクルを起こしたくなかったんです。だから、等身大の特殊能力も何もない普通の子を主人公にしました。

お仕事マンガといえど熱血系ではなく、えみるはいつもあたふたしきり。えみるのテンションが高すぎないのも、読みやすさのひとつ。

お仕事マンガといえど熱血系ではなく、えみるはいつもあたふたしきり。えみるのテンションが高すぎないのも、読みやすさのひとつ。

──この先は、えみるはケースワーカーとして成長していくのでしょうか。

柏木 そうですね。私も、えみるに成長してもらいたいと思いながら描いています。ただ、えみる……、育つのかなぁ?(笑) 私自身、取材の過程で人の話を聞くのが自分はこんなに下手だったのかと気づきまして。「私ってこんなにダメだったのか!」と驚くくらい。対人援助の仕事というのは、それだけ難しいお仕事なんですよね。 まぁ、まだ巻が浅いですし、私もはっきりと終わり方は考えていないんです。

──今後は、えみるの恋愛も見れるのでしょうか?

柏木 今のところ、予定はないですね。見たいですか?

──見たいです! あ、いや……、どうなんだろう(笑)。えみるもそうなんですけど、えみるの上司の半田さんがどんな恋愛をするのかは気になります。仕事ができて頼もしいけど、いつも飄々としていて……。「この人、どんなプライベートを過ごしているんだろう」と、読みながらいろいろ想像しちゃいます。

えみるの頼れる上司、半田さん。基本的に優しくて飄々としているが、 「ここぞ!」という場面ではメガネの奥の瞳が輝いてイケメン度アップ!

えみるの頼れる上司、半田さん。基本的に優しくて飄々としているが、
「ここぞ!」という場面ではメガネの奥の瞳が輝いてイケメン度アップ!

柏木 ありがとうございます。

──『健康で文化的な最低限度の生活』は、これまでに就労支援編、不正受給編、扶養照会編と進んできましたが、先生のお気に入りの話はありますか?

柏木 全部の話に思い入れがあるんですけど……。そうだなぁ、第1話は思い入れが深いですね。この作品のテーマをストレートに表現できたので、気に入っているんです。

──えみるの担当していた受給者が自殺した時に、先輩ケースワーカーがえみるにかけた「ケースが減ってよかったじゃん。」というセリフが登場する話ですね。

受給者が自殺し、「ケースが減ってよかった」と自分を納得させようとしたえみるだが、その人の生きていた名残の残る部屋を見て……。

受給者が自殺し、「ケースが減ってよかった」と自分を納得させようとしたえみるだが、その人の生きていた名残の残る部屋を見て……。

柏木 それは本来いってはいけない言葉なんです。でもそれをいってしまうケースワーカー、いいたくなってしまう状況というのはある。やっぱりそれだけ追いこまれる仕事だし、受給者本人を見ていて、生きているのが辛いんじゃないかと思う場面もあります。でも、それでもやはりそこには人ひとりの命があって、生活があって、人生がある。それを忘れちゃダメだ、と。 「これはこういう作品なんだ」というのを、この1話で表現できたと思っています。

──様々な事情を抱える受給者が登場するなか、ケースワーカーもいろんな考えを持っていますよね。

柏木 この作品ではそういった様々な価値観について、なるべくジャッジをしないように気をつけて描いているんです。この人が正しくてこの人が間違っている、というふうには描きたくない。読者に「その先」を考えてほしいから。だから、いろんな意見を持った人を描いているんです。 私はあくまで「こういう事例があります。こういう意見があります」「で、あなたはどう思いますか?」と、読者とともに考えていきたいんです。

──お話しを聞けば聞くほど、これまでの柏木先生の作品とは描き方の違うマンガだとますね。この作品ならではの喜びはありますか?

柏木 喜び……。う~ん。大事なことを描いているという実感があるというか、この作品を待っている人がいると思えることが喜びといえるかも。漫画家って、基本的に孤独なんです。作業中は、担当編集者とアシスタントとしか顔を合わせない日が続くし、「このマンガ、だれも読みたくないんじゃないか」と思いながら原稿用紙に向かう時間も結構あるんです。それってツラいんですよ。
何かの賞を受賞した有名人が「これは私ひとりの力ではなく、支えてくれたみなさんのおかげです!」っていう姿を見て、昔だったら「ウソだ。本人の努力の結果じゃないか」って思ってたんですけど、今は、自分もそうありたいな、と。今回の作品は、いろんな人に助けてもらっている、といっていいと思います。感謝できること、それは幸せなことです。
今後も、いろんな人の力を借りながらマンガを描いていきたいです。こんなに人づきあいが苦手なのに、自分なりに努力して人とつながったことに対してだけは、自分をほめてあげたいです。

第3巻巻末より。以前は「自分ひとりの力でマンガを描くのが偉いと思っていた」と語る柏木先生だが、 「健康で文化的な最低限度の生活」は、たくさんの人の力を借りて描いているという。

第3巻巻末より。以前は「自分ひとりの力でマンガを描くのが偉いと思っていた」と語る柏木先生だが、
「健康で文化的な最低限度の生活」は、本当にたくさんの人の力を借りて描いていると話す。


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『健康で文化的な最低限度の生活』 第4巻
柏木ハルコ 小学館 ¥552+税
(2016年8月30日発売)


本作で先生が「生活保護」というテーマを選んだ理由から、一見バラバラのテーマを描いた各作品に共通する想い、本作を描くモチベーションなど作品の根幹に関わる話題が飛び出てきた、今回のインタビュー。次回はさらに、柏木先生ならではの表現の工夫や、漫画家のとしてのルーツが明らかに!?

そんな『健康で文化的な最低限度の生活』の最新単行本第4巻は、8月30日より好評発売中。
今回のインタビュー&近日公開予定のインタビュー第2弾を読めば、最新刊もより深く楽しめること請け合いです!

取材・構成:片山幸子

単行本情報

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