男子主人公は少年マンガ育ちゆえ!?
――キャラクターは、おわらという題材が決まってから考えたのでしょうか。
小玉 そうですね、大人と子どもを描きたかったんですよ。大人には大人の世界の関係性があり、子どもには子どもの世界があるけど、その間にひとつ、つながった線があったら……お互い動揺するだろうな、と。それが円と蛍子の関係です。最初にできたのは蛍子、円、光、蛍子のお母さん、富樫の5人です。
――主人公は光……ですよね?
小玉 光ですね。1巻の表紙が蛍子で、2巻でやっと表紙になったんですけど……物語を語る目線の軸は基本的に光です。『ドラえもん』でいうと、のび太なんです。
――なるほど(笑)。今回も『坂道のアポロン』に続き、男の子が主人公ですね。
小玉 男の子のほうが描きやすいんです。初期の短編では女の子を主人公で描いてたんですけど、どうも生々しい変なところまで見せてしまってやりにくくなっちゃう。
――女の子……というか、女性特有の生々しさの描写が、よくない面として出てしまうといった感じでしょうか。
小玉 男の子を描いてるほうが単純明快で気持ちいいというか、私自身が乗り移りやすいみたい。
――表情を出さなかった蛍子が笑った……という時に、キュンとする光の立ち位置が描きやすいわけですね。
小玉 そう、その目線でいるほうが、私は女の子をかわいく描ける気がして。外から女の子を見たいという気持ちがあるのかもしれません。
――小玉先生は子どもの頃、どちらかというと少年マンガを読んで育ったとうかがっていますが、やはりその影響もあるのでしょうか。
小玉 萩尾望都先生や大島弓子先生ら、「24年組」[注5]の漫画家さんの作品など、少女マンガも読んできてはいますが……やっぱり少年マンガ育ちですね。少女マンガを描いている立場で言うのもなんですが、今も「王道的な少女マンガ」の考えかたは、あまりわかっていないのかもしれないです(笑)。
――女の子を支えてあげたい、守ってあげたいみたいな気持ちがあるのかもしれませんね。
小玉 そう……かもしれないです。自分が読む側の場合も、男の子が主人公のほうが感情移入して読めるんですよ。これは少女マンガ、少年マンガにかかわらず。
キャラクターの動くままに縮まる距離
――2巻の帯には、富山出身の藤子不二雄A先生[注6]からの推薦コメントが載っていますね。
小玉 以前、漫画家さんが集まる飲み会でお会いしたことがあって、無理を承知でお願いしてみたら、とても素敵なコメントをくださいました。作中のセリフを引用してもらっているんですが、じつは少しだけ(実際のセリフと)違っているんです。でも、先生の言葉として、そのまま使わせていただきました!
――小玉先生の作品は、藤子A先生が注目したセリフの魅力はもちろん、じわじわと登場人物の関係が近づいていくのを読むのも楽しみどころだと感じます。そこは、先生自身も意図しているのでしょうか。
小玉 うーん、自然にそうなっちゃうみたいです。
――登場人物たちの距離の縮まり具合は、キャラが動くままに?
小玉 そうですね、なかなか近づかないこともあれば、急に縮まったり。里央なんかは急にぐいぐい蛍子に接近していったので、私もびっくりしちゃったんです。
――里央は当初、少女マンガの王道的な意地悪女子キャラかと思っていたんですが……!
小玉 私も里央はもっとツンツンしてる子かと思っていたのに……でも、勝手に動いちゃうのを止められなかったです。予定外だったんですけど、里央は描いててどんどんかわいく見えてきたので、まあ結果的にはよかったかな。
――里央と蛍子と光が3人で、円の店でコーヒーを飲むシーンがすごくいいですよね。高校生が3人でキャッキャしてるところには、円おじさんはあえて首を突っこんでこない。まさに、大人の世界と子どもの世界の境界が描かれてる場面だと思いました。
小玉 円はふだんは、感情だだ漏れすぎなんですけどね。
――蛍子と2人きりになると、すぐポッと顔赤らめちゃって……ダメですよね(笑)。でも、ここは大人らしい抑制のきいた振る舞いが素敵です!
小玉 これが富樫だったら、話に割りこんできそうですけど。
――そういえば、富樫は2巻終盤からの登場ですが……早くから決まっていたキャラクターとは意外でした。
小玉 富樫は早く出したくてうずうずしてたんです。でも、はじめて描いた時は、仕事場のスタッフさんたちに「この人、何者……?」って怪しまれちゃいました(笑)。
――初登場がアロハにサングラス、くわえ煙草で高校に入ってきて、完全に不審者……ですからね(笑)。
小玉 そんな役回りではありますが、すごく気に入ってるキャラクターなんです。
【後編へ続く】
- [注5]「24年組」 昭和24年頃(1940年代後半から1950年代前半)に生まれ、1970年代に革新的な表現やストーリーで人気を博した、女性漫画家たちのこと。同性愛(少年愛)を本格的に描いた萩尾望都『トーマの心臓』や、壮大なSFファンタジー作品として執筆された竹宮惠子『地球へ…』など、数々の名作が後年の少女マンガに大きな影響を与えた。
- [注6]富山出身の藤子不二雄A先生 『怪物くん』『笑ゥせぇるすまん』などで知られる漫画家の藤子不二雄A先生は、富山県氷見市で生まれ育った。自身の自伝的作品『まんが道』にも、富山で過ごした青春時代が描かれている。
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取材・構成:粟生こずえ・編集部 撮影:辺見真也