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【インタビュー】 笠で顔を隠して、若い男女が踊る…ドキドキ! 『月影ベイベ』 小玉ユキ 【前編】

2014/06/02


『このマンガがすごい!2009』の「オンナ編」で、ランキングトップに輝いた名作『坂道のアポロン』。その作者・小玉ユキ先生の最新作『月影ベイベ』が、今年度ランキングで堂々の第3位にランクイン!

今回のインタビューでは、本作の舞台・富山と「おわら風の盆」に対する、小玉先生の想いを語ってもらった。

(後編は→コチラ

著者:小玉ユキ

2000年に「CUTiE Comic」(宝島社)に掲載された「柘榴」でデビュー。2007年に初の単行本『光の海』を刊行。同年「月刊フラワーズ」(小学館)で代表作となる『坂道のアポロン』の連載を開始し、2012年には第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。

『坂道のアポロン』完結後の2013年から、同誌で『月影ベイベ』の連載を開始する。

一発で富山「おわら風の盆」の虜に……

――『このマンガがすごい!2014』のアンケート企画開始時、『月影ベイベ』はまだ1巻しか出ていませんでしたが、それで3位という順位はすごいですね!

小玉 ありがとうございます、私も正直驚きました。

――大ヒット作『坂道のアポロン[注1]は、過去「このマンガがすごい!」でも、2009年度版の「オンナ編」でランキング第1位となるなど、多数の支持を集めました。その次はどんな作品が出てくるのかと、読者の期待するハードルも高かったはず。富山の伝統芸能「おわら風の盆」[注2]を踊る高校生たちの物語という構想は、どのように生まれたのですか?

小玉 『アポロン』連載中は、次の作品のことまで考える余裕がなかったです。本編が終わって番外編を描いてる頃、そろそろ次を考えないと……と思って。題材はいくつか候補があったんですが、担当さんと話し合って決めました。

――もともとおわらに興味があったんですか?

小玉 7年くらい前にテレビで映像を見て、なんとなく気になっていたという程度です。静かな踊りで、街の石垣に光が当たるなかで踊る情景を見て……夜の雰囲気がいいなと思っていました。とりあえず、まずは実際に見にいってみようということになったんです。一昨年の9月に担当さんと富山市八尾に行って、風の盆のお祭りを目の当たりにしたわけですが……一発で虜になりました。帰りの新幹線のなかでは、もう「ぜひ描きたい。ほかの人が描く前に描かないと!」と決めていました(笑)。心の底から「これはすごいお祭りだ」と実感したんです。

――実際に現地に行ったからこそ感じたすごさは、どこにあったのでしょう?

小玉 普通の暮らしをしている町の人たちが、これほどのお祭りを創りあげているということにかっこよさを感じたんです。ふだんはそれぞれ違う仕事をしている社会人も学生も、踊りは指先までピシッとみんなそろっていて。今風の茶髪のお兄ちゃんも、笠をかぶるとキリッとしたり。年配の方々がかっこよく楽器の演奏をしていらっしゃる感じとか……踊りや音楽そのものの美しさはもちろんですが、町全体でお祭りを創っている一体感に心打たれました。

――それ以降、かなり取材に行ってるんですか?

小玉 もう10回以上は行ってますね。多い時は月1回ペース。冬は雪で閉ざされてしまうので、ちょっと間があきますけど。行くたびにいろんな人と知り合いになれるのも楽しみのひとつです。

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――地元の方々もマンガの舞台になっていることを知ってるんですか?

小玉 はい、観光協会の方がすごく宣伝してくださっていて。おかげで、よくいろんな方から声をかけていただきます。全然少女マンガを読まなさそうな年配の方からも。

担当編集 地元の書店さんもすごく応援してくださっているんですよ。

小玉 本当にありがたいです! 舞台になってる八尾諏訪町の20歳くらいの女の子で、特に協力してもらってる子がいて、彼女には練習の様子だけじゃなく年上の方との交流のしかたなども詳しくうかがっています。踊りのポーズをチェックしてもらったり。

若い男女が踊る「おわら」は少女マンガにぴったり

――取材して、これはぜひ使いたいと思ったエピソードは?

小玉 聞いたことは全部参考にしてますよ。住んでいる人にとっては当たり前のようなことでも、町独特の文化みたいなものがすごく新鮮で魅力的に感じられて、描きたくてしかたないんです。

――具体的にはどんな点でしょうか。

小玉 踊りを習うには特別な師匠がいるわけではなくて、身近な年上の人に習う、というのも驚きでした。小さい子は、年長の人の踊りを見て「かっこいいな」と憧れて、そのうちに見よう見まねで踊り始めたり、習うようになっていくんです。

――光が円おじさんに憧れる構図が、まさにそれですね!

小玉 そうなんです。年上の人をすごく敬っている雰囲気を感じるのですが、それはしつけられたものではなくて、尊敬から生まれる自然なことなんですね。上下関係が厳しいところもあるんですが、若い子も年配の方もとても仲がいいんです。

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――いいですねぇ……なんだか今どきの日本ではファンタジーとすら思えてしまいますが(笑)、確かにその空気、作品に反映されています。『坂道のアポロン』で描かれた60年代の長崎にも通じる気がします。

小玉 『アポロン』との共通点、というところまで自分では意識していませんでしたけど、確かにそういう町が持っている独自の空気のようなものを、作品にうまく反映できたら……と思っています。

――地元の人がおわらをやるのも「郷土芸能を絶やしてはいけない」みたいな、気張った使命感とも違いそうですね。

小玉 はい、素直にかっこいいと思うから始めるという、自然発生的な感じです。踊りの練習を小さい子が見に来ていて、まねして踊ってみたりするんですよ。あんな小さい子も興味津々で見てる、あの輪に入りたいと思ってるんだろうな、みたいな……。そういう、見ていてうれしくなるような一場面に出会えるのが、取材の醍醐味です。

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――おわらというのは、若い人しか踊れないんですよね?

小玉 だいたい25歳くらいまでらしいんです。町によって違ったり、例外もあるそうですが。踊りを引退すると、地方(じかた)[注3]に回るんですね。円も今は地方として、胡弓[注4]を弾いていますが。

――若い男女限定の踊りなんて、少女マンガの題材としてはぴったりですね。

小玉 取材に行くまでは知らなかったんですが。いろいろと萌えますよね。笠で顔が隠れてる秘めやかさがあって……男踊り、女踊りという違う踊りがあって、いっしょに踊るととてもきれいに調和するところとか。

――作中の画面からも、笠で顔が隠れてるからこその色気が伝わってきます。

小玉 男女が絡む踊りもあるんです。町によってはやらないところもありますし、歴史的には新しい踊りなんですが。といってもささやかなもので、指がちょんと触れあうだけとか、肩に手を置いていっしょに月を眺めるくらい。で、ふっと離れてまた別々に踊り出すのが、ときめくんです。

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――そのささやかさが、逆にたまらないですね。

小玉 そういう時、お客さんも盛り上がるんですよ。「ヒュー」なんて口笛や声援が飛んだりして。昼間もやっていますが夜が本番のお祭りなので、しっとりとした色っぽい味わいがありますね。静かな踊りなのにドキドキ高まってしまうのが、私がおわらに夢中になった理由だと思います。

  • [注1]『坂道のアポロン』 「月刊フラワーズ」(小学館)で2007年から2012年まで連載された、小玉ユキ先生の代表作。秀才だが繊細で心を閉ざしがちな少年・薫が、転校した長崎県佐世保市の高校で、「札付きのワル」と恐れられていた豪快な少年・千太郎に感化され、ジャズの魅力に惹きこまれる姿を描く。『このマンガがすごい!2009』の「オンナ編」ランキングで第1位に輝いた。
  • [注2]伝統芸能「おわら風の盆」 富山県富山市八尾地域で、江戸時代から伝わる行事。八尾地域に伝わる「越中おわら節」の旋律にのって、無言の踊り手たちが踊りを披露する。
  • [注3]地方(じかた) おわらの踊り手の後ろで流れる「越中おわら節」を歌唱する人と、その伴奏をする人たちのこと。
  • [注4]胡弓 三味線に似た形状をした3本の弦を持つ和楽器で、ヴァイオリンのように弓を用いて弦を振動させ、音を奏でる。北陸から関西にかけての民謡や祭りで演奏されることが多い。

単行本情報

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