面の向きなどで感情を表現する能楽師の技術をマンガでも表したい!
――本作を描くにあたっては、能面や能についてかなり資料を読んだり、取材をされているのでは?
織田 法政大学能楽研究会に取材に行った際、若い学生の方々が能をされているということに驚きました。能楽の世界は一般の世界とは壁があるイメージを持っていたので、普通の大学生が紋付はかまや伝統文化などへの興味という、ちょっとしたきっかけによって能楽の世界に入ることがあるのかと、うれしく思いました。若い人たちが能楽という文化を、肩ひじ張らずに自然に受け入れて、また受け継ごうとしていることに希望を感じました。
――本作をきっかけに、「能について知りたい」と感じている読者も多いと思います。入門編におすすめのものがあれば教えてください。
織田 能の舞台を観たことがないなら、ぜひ一度舞台を観ていただきたいです。能面も、舞も、音楽も、生で観ると迫力が違います。また、能面展に行くと実際の能面を間近で見られます。私も時間があったら、もっと能の舞台や能面を見たいです! 衣装に興味がある方には『一歩進めて能鑑賞 演目別にみる能装束』をオススメします。写真がたくさんあって目にも楽しい本です。
――マンガがきっかけで興味を持つことって多いですからね。『花子さん』をきっかけに、北山先生ばりに能にハマってる読者もいるかも!?
織田 私自身、ジャズのマンガを読んでジャズピアノを始めたり、『ヒカルの碁』を読んで碁をパソコンでやってみたりと、影響を受けてチャレンジすることは多いです。能のすばらしさを伝えたい想いもありつつ、マンガを描くうえではそこは極力抑えるようにしていますが……。『花子さん』を入口に、能に親しむ人が増えたらとてもうれしいですね。
――能面を実際にかぶってみたことはありますか?
織田 はい、あります。視界が狭すぎて、身動きが取れませんでした。足下が見えないと、うまく立ち上がることすらできないということを知りました。あと……息苦しかったです。能楽師の方々が能面をかけて舞台上を動いたり、舞ったりしているのが神業に思えます!
――同じ能面なのに表情が優しく見えたり、怖く見えたり……といった表現も自然で目からウロコが落ちます。先生が実際の能面を見て感じたことからきているのでしょうか。
織田 そうですね。能楽の舞台では、長い時には2時間など、ひとつの面でいろんな感情を表さなければならないんです。面の向きなどで悲しみや喜びを表現するということを、マンガでも活かしたいと思っています。以前、お世話になっている能面教室の生徒の方から小面をいただいたのですが、その面を眺めていると、朝と夜、また日によって表情が違って見えるのが本当に不思議です。見ている人の気分や状態によっても、面の表情が異なって感じられるのかもしれません。
――奥深いですねぇ。1話のなかで、能面のいろんな表情が描き分けられていますが、こうした描写へのこだわりポイントは?
織田 面のパーツ(まゆげ、目、口など)は動かさず、トーンやかけあみなどのマンガ表現で表情を表現しようと心がけています。マンガ界で今まで使われてきた表現や技法をいろいろ試していますし、これからもチャレンジしていきたいですね。ちょっとした線の入れ方ひとつで感情が変わって見えるので、マンガの表現力のすごさを感じています。
――図書室の本棚の後ろから花子さんが出てきた瞬間、彼女に慣れている香穂ちゃんでさえ驚くなど、笑える「怖さ」の演出もバリエーション豊かで、ここも見どころだと思います。ホラー映画などを参考にしたりしますか?
織田 ホラー映画は怖くて見られません。友だちと話しながら、能面がどういうふうにあったら怖いかを聞いたりして参考にしています。個人的には、能面の怖さというのは、ふとした瞬間に目に入る日常のなかの違和感によるものだと思っているので、あまり過剰に怖さを演出しないようにしています。
――花子さんのお母さんは般若の面ですが、第2巻によると若い頃は違う能面をつけていたんですね。花子さんも大人になると面を変えるのでしょうか。
織田 小面より少し年上の女性の面に若女や孫次郎という面がありますが、そういった年相応の面に替えていくのではないでしょうか。ただ、若女や孫次郎は小面と似ているので、まわりの人は面が変わったことに気がつかない可能性も高いかも……。
――花子さんがどんな女性に成長していくのか、大人になった姿も見てみたいです。では最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
織田 読者の方々から感想をもらった時や、書店さんが応援してくださっているのを知った時、とても力が湧いてきます。2巻が出せたのも、読者の皆様が応援してくださったおかげです。今後とも花子をよろしくお願いいたします!
――ありがとうございました!
取材・構成:粟生こずえ
織田涼先生の『能面女子の花子さん』も紹介している
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