主人公であるレゴシは、オオカミだが繊細で優しい性格だ。学園では演劇部に所属しているが、人前に立つのは好まず裏方専門。
しかし、そんなレゴシも自分のなかにオオカミとしての本能が備わっていることに気づかざるをえない。
ある霧の深い夜、学園の構内で見えない他者の気配をキャッチしたとき、レゴシは瞬間的にその草食動物に飛びかかってしまっていたのだ。
暴れまわる獣の本能と戦った結果、恐れていた事態は避けることができたのだがーー。
この時、レゴシに噛み殺されるかと思った側のメスウサギ・ハルのキャラクターも独特だ。
彼女はいわゆるビッチで、学園じゅうの女子を敵にまわしている。とはいえ、そういう振るまいはハルにとっては単に生きるすべなのだ。ハルの外見の可憐さに、オスどもは「守ってあげたい」と勝手に寄ってきては、その内面が理想と違うとわかると去っていくーーただそれだけ。
あれっ、こういうことって人間界でもありがちではないか?
あいつは肉食獣だから、いざとなったら親友だって噛み殺すだろう、小さい女の子はぶしつけにかわいがってかまわないでしょ……みたいな、他者の一方的な思いこみと、尊重されるべき個との間に横たわる問題。
この動物たちの群像劇は、もしかしたら人間にとっての「擬人化」の“逆”たる作品なのかもしれない。
種を超えた共存、差別、血に刻まれた本能、ヒエラルキー……社会的なテーマをはらみながら、コミカルさもあればミステリアスな側面もあり。これが本格連載デビュー作となる俊英が紡ぐ重層的なドラマは、物語を読む原初の喜びをもたらしてくれる。
『BEASTARS』第2巻
板垣巴留 秋田書店 ¥429+税
(2017年4月7日発売)
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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