「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品を紹介! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』
砂漠が舞台の作品は、カバンに入りこんだ砂粒のようにいつまでも心に残り続ける。フランク・ハーバートのSF『デューン 砂の惑星』もそう、松村栄子による叙情的なSFファンタジー『紫の砂漠』もそう、安部公房の『砂の女』もそう……。
海がかつて人類が暮らしていた母なる故郷のイメージだとしたら、砂漠はその逆、哀しみ、孤独、拒絶、そうしたものが積もりに積もった世界なのかもしれない。
見渡すかぎり一面の砂原を「泥クジラ」と呼ばれる漂泊船がさまよう。船といっても513人が暮らす小さな村のような閉ざされた箱庭。ここは楽園か、牢獄か……。
謎めいた世界観に魅せられて1巻を読んで、すぐにもっとも思い入れのあるマンガのひとつとなった。
その『クジラの子らは砂上に歌う』がアニメ化され、10月からTOKYO MX、KBS京都、サンテレビ、BS11で放送される。また、Netflixでも配信されるという。
アニメは、BGMや効果音、セリフの抑揚……そうしたものでマンガ以上に登場人物の感情や空気の濃淡を増幅させるメディアだ。
もともと原作も緊張と弛緩の波で読者の心を揺さぶる。
泥クジラの船上では、主人公の記録係の少年・チャクロを始めとする少年少女が快活に日々を送り、砂をかけあう「スナモドリ」の祭りといった独自の風習もあって離島のような穏やかな空気が流れている。
しかし、それが一変。仮面をかぶった感情のない「帝国」兵士たちが降り立って、逃げ場のない戦闘が始まる……。
アニメになったら、そのコントラストがさらに人を惹きつけるのではないか。これを書いている段階では、短いPVが公開されているだけだが、住民たちの苦悩や憤りを描き出すシリアスな方向に軸足を置いているように感じる。
背景が水彩画を思わせる柔らかいタッチなのも印象的。美しい景色を背負って、泥クジラという存在の哀しみがなお引き立つだろう。
アニメが、チャクロたちの先の見えない彷徨にどのような色づけをしてくれるのか楽しみにしたい。
TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』を観たあとに……
今回、TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『クジラの子らは砂上に歌う』 梅田阿比
『クジラの子らは砂上に歌う』 第1巻
梅田阿比 秋田書店 ¥429+税
(2013年12月16日発売)
砂刑暦93年、513人を乗せて砂の海を進む小島のような漂泊船「泥クジラ」。船の記録係の少年・チャクロが外の島で見つけた少女を連れ帰った時、楽園の平和は終わりを告げる……。
泥クジラに住む、能力を持った短命の少年少女「印」たちの戦いと葛藤を描く、「ミステリーボニータ」連載の冒険ファンタジー。彼らに安住の地はあるのか? 泥クジラと「印」に隠された秘密とは? そのミステリアスな世界観が話題となり、舞台化、アニメ化とメディア展開が続いている。
『クジラの子らは砂上に歌う』のほかに、このマンガもおすすめ!
『裸足で、空を掴むように 梅田阿比短編集』 梅田阿比
『裸足で、空を掴むように 梅田阿比短編集』
梅田阿比 秋田書店 ¥454+税
(2017年9月15日発売)
本書は、梅田阿比のデビュー作を含めた5編を収録した短編集。
「週刊少年チャンピオン」でのデビュー作「幽刻幻談――ぼくらのサイン――」、同じく「週刊少年チャンピオン」での短期連載作「人形師いろは」、「プリンセスGOLD」掲載の和風伝奇「銀の誓約」、「ミステリーボニータ」掲載の表題作、そして書き下ろしの掌編「おちばの家」の5編。
10年前の作品と今の作品、少女マンガと少年マンガ、それぞれ絵柄は少しずつ異なるが、『クジラの子らは砂上に歌う』と共通する温かい雰囲気と登場人物たちの柔らかい絆は変わらない。
表題作は「道化師」というモチーフで『クジラ~』7巻収録のエピソードと「対になる作品」とか。
『クジラ~』が生まれた源泉がわかる1冊だ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でファンタジー時評、「かつくら」でライトノベル時評を連載中。
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