職場でポーチがなくなった。あるいは、後輩が急によそよそしくなった。こうした日常生活での奇妙な謎を解いてゆくのが「日常の謎」系と呼ばれるミステリーである。
また、麻野は理恵の話だけで真相を見抜くのだが、これもミステリー的にいえば「安楽椅子探偵物」というジャンルに属するものだ。
こうしたパターンは次作以降でも踏襲されていく。
そして、各エピソードには、麻野が調理したおいしいスープも登場するという、グルメの要素でも楽しめる作品なのである。
第2話「ヴィーナスは知っている」は、第1話に登場した理恵の後輩・長谷部伊予が主人公となる。伊予が大学時代から憧れていた先輩・椎名武広が「運命の人」と呼ぶ女性をとりまく謎を麻野が解き明かす。
第3話は「ふくちゃん」と呼ばれることを気にする福田三葉が、体重を減らすために努力した結果……という「ふくちゃんのダイエット奮戦記」。
第4話「日が暮れるまで待って」では、「しずく」のトイレでなくなった大事な指輪を、麻野が意外なところから見つけだす。この紛失劇の際には「しずく」の常連となっていた理恵にも一瞬疑惑の眼が向けられ、それに対して麻野の娘・露(つゆ)が激しく反発するという2人の絆が強まるドラマがある。
露は、10歳の小学生。父親が料理しているのを見るのが好きで、早朝営業の際には「しずく」で朝食をとっているのだ(ただし、人見知りなので、知らないお客さんがいたら店には出てこない)。
この第4話で、理恵は初めて麻野の名前を知る。今後、理恵と麻野親子の関係は、より深まってゆくのであるが、それは次巻以降のお楽しみである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。
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