とはいえ、何かに秀でている人をして「あ、あの人は天才だからね〜」と「自分ら一般人とは違うし〜」、と簡単に「別格だから」自分とは別次元の人、と片付けてしまうけれど、「天才」と一口に言っても、多分天才の成分(?)は、もとからある秀でた部分のギフト(=まさに神様からの贈り物ともいえる、天与の才)と、タレント(=ギフトに恵まれていることを自覚し、かつより延ばす努力ができる)という2つに大きく分かれていて、ギフトとタレントの両方がなければ「昔神童、今はただの人」状態になってしまうんだと思う。
零くんはそもそも将棋へのギフトもあったけれど、家族が生きていた頃は多忙な父親と少しでも一緒にいたくて必死に将棋を学び、家族と死別し、父の奨励会で盟友だった幸田の家に引き取られてからは、幸田父を喜ばすため、他人様の家庭で自分の居場所を確保するためますます将棋にのめり込み、そして中学生にしてプロになれるほど努力して結果を出したタレント過多な子なのだが、結果、学校にも幸田の家にも居場所はなくなっていってしまった。
さらに、プロ棋士になればひとりで暮らせるほど稼げるからと一人暮らしをしていれば、自立した大人になれたのかといえば、孤独の輪郭がハッキリしただけだった……。
そういう意味で言えば、零くんが学校でいじめられないのはたぶん、プロになったからだろう。
クラスメイトと同じ教室にいるけど、生きる世界が違うため異形すぎてスルーされてるというか、レイヤーが違うから認識されない(「無視されてるだけなんで」って本人も林田先生に言ってたし。いや、それもどうなのよ零くん……)からなんだと思う。
だからこそ、ひなちゃんが中学校でいじめられたのは、同じ教室内の悪意の向かう先に彼女はブルブル震えながら、それでもすっくと立ってたからなんじゃないかとも。
このひなちゃんの芯のしっかりしたしなやかな強さは、まわりの人たちの愛情を浴びるように受けて、人の善意のありかを疑わないからこそはぐくまれたんだろうし、そのまっすぐさが妬まれた要因なんだろうと思う。
そして、その強さは零くんを救った。かつていじめられてひとりで震えていた過去の彼も、これから先の彼も。
あ、コレ、将棋の話だしボーイミーツガールものだったな、って第10巻になって思い出した(笑)。
ひな達を置いて出ていった自己愛強過ぎな川本父との対決は、将棋の勝負のようにはいかないだろうけれど、零くん、ここでひなを守れなきゃ一生一緒にいることは叶わないぜ。
それに、君はもうひとりじゃない。
だから、思いっきり誠二郎さんをヤっちまってください。
『3月のライオン』著者・羽海野チカ先生のご担当者から、コメントをいただきました!
<文・小山まゆ子>
フリーランスの編集・ライター。じつは、『ハチミツとクローバー』初代担当編集もさせていただいてました。絶賛発売中!!の『このマンガがすごい!2015』にも参加させていただきました。現在発売中の『宝島AGES』の「80年代特集」にもチョロっと参加させていただいております。