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『3月のライオン』第10巻 羽海野チカ 【日刊マンガガイド】

2014/12/16


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『3月のライオン』第10巻
羽海野チカ 白泉社 \486+税
(2014年11月28日発売)


将棋マンガではあるものの、中心軸は将棋に置いておらず、羽海野チカらしい人間ドラマが見どころだ。
といっても、将棋を軽んじているわけではない。監修に矢崎学八段を迎え、しっかりと将棋の魅力も描いている。

「棋士としての生きかた」はもちろん、いじめ問題や親子関係など、あらゆるテーマが包括的に展開されている。天才ゆえの孤独感の表現も、同著者の『ハチミツとクローバー』に通じるものがある。
それぞれのテーマが絡み合いながらも、物語が進んでいく様は、群像劇が得意な羽海野チカの真骨頂だろう。

羽海野チカならではといえば、コマとコマの間に差し込まれるモノローグも健在。コマのなかに書かれる通常のナレーションと相まって、キャラクターの心情をしっかりと描きながらも、説明くさくなっておらず、惹きこまれていく。
「映画的な手法」といえばそうだが、なんというか、もはや「羽海野チカ的な手法」と呼びたい。

物語は、子どもの頃に両親を事故で失い、中学生でプロ棋士となった桐山零の成長譚。引き取り先にも学校にも居場所を見いだせずにいた零は、下町人情あふれる川本家や世話焼きの高校教師林田、病弱熱血漢のライバル棋士二階堂などと触れ合うことで人間的に成長していく。
第10巻では、川本家の次女ひなたのいじめ問題がようやく収束を見せ、心機一転、高校生活を楽しみ始めていた。その矢先に、とうの昔に家を飛び出し離婚をしていた父親が訪れ、またもや波瀾の予感。
現時点では悪者にしか見えない父親だが、どのキャラクターも通り一遍の表現をしない羽海野チカにとって、どのように描かれていくのか、どのように許されていくのか。今後の話の展開以上に気になるところだ。



<文・岡安学>
デジタルモノなどのガジェット系を中心に雑誌やWebで活動するフリーライター。元ゲーム誌編集者で、ゲームやアニメ、マンガなどのメディアも守備範囲。ソフトとハードのどちらもこなす。現在、生活総合情報サイト「オールアバウト」にてデジカメのガイドも務める。

単行本情報

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