『月下の棋士』第1巻
能條純一 小学館 \400+税
11月17日は、日本将棋連盟が定めた「将棋の日」である。
江戸幕府八代将軍・徳川吉宗は将棋好きでも知られ、吉宗の治世の時代、旧暦11月17日に御城将棋(公務としての御前試合)を開催するようになった。「将棋の日」は、この御城将棋に由来している。
さて、将棋マンガといえば、昨今は柴田ヨクサル『ハチワンダイバー』(『このマンガがすごい!2008』オトコ編ランキングの第1位)や、羽海野チカ『3月のライオン』などのヒット作が続いている。
どちらの作品にもアクの強い棋士たちが登場し、あらためて「棋士」という特殊な存在に気づかされたマンガファンも多いことだろう。
だが、将棋マンガの金字塔といえば、能條純一『月下の棋士』を忘れてはならない。麻雀マンガ『麻雀飛翔伝 哭きの竜』で一世を風靡した作者ならではの、棋士同士のヒリヒリした真剣勝負の世界が衝撃的であった。
主人公・氷室将介が対局相手を睨みつける鋭い眼光に痺れたものである。命の火を燃やすような究極レベルの集中力を、静画であるマンガで表現する……。それがどれだけ困難な作業であったかは、推して知るべしだ。
なによりも作中に登場するライバル棋士たちが、とてつもなく個性的でおもしろい。というよりも、ぶっちゃけ「変人」ぞろいである。
「いくらなんでも、こんなヤツいねーだろ」と思いがちだが、実在の棋士のエピソードをもとにキャラクターが作られている。
現実の棋士のキャラの濃さに恐れ入るとともに、その魅力をマンガキャラクターに付与することでさらに増幅させるという、能條マンガの懐の広さにも感嘆するはずだ。濃ゆいキャラ同士の濃密な真剣勝負を堪能しよう。
個人的にイチオシなのは、刈田升三名人。物語が進むにつれて、主人公との意外な関係性が明るみに出る。
ヘビースモーカーの破天荒なキャラクターで、モデルはもちろん升田幸三、不世出の傑物である。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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