『HERO アカギの遺志を継ぐ男』第7巻
前田治郎(著)福本伸行(協) 竹書房 ¥648+税
(2014年7月28日発売)
すべては、街の雀荘で学生風情にやり込められた商店街の親父連中が、雀ゴロとして生きる男に代打ちを依頼したことに始まる。
このとき、代打ちを頼まれた男こそ、大胆不敵ながら無類の勝負強さを持つ天貴史。そしてコンピューターのように正確で隙のない麻雀を打っていた学生風情が、「ひろ」こと井川ひろゆき。
やがて天と関わる中で、自身も代打ちとなったひろは、裏社会を生きてきた赤木しげるという伝説の天才と出会う……。
作品紹介をするにあたって、いきなり別の作品の話から入るというのも恐縮だが、上記は福本伸行『天 天和通りの快男児』の導入部分。本作『HERO アカギの遺志を継ぐ男』は、その『天』のスピンオフに当たる作品だ。
その主人公は、タイトルに「HERO」とあるとおり、『天』の語り部的な立ち位置だった「ひろ」こと井川ひろゆき。『天』では天や赤木という凄腕の男たちを前に、麻雀を捨ててカタギの道へ戻ったひろだったが、赤木が人生の最期に選んだ選択が、ひろの人生も変えていく。
赤木の葬儀から3年後、ひろは赤木の遺志を継いで彼に近づくことを目標に、再び麻雀打ちとして生きていく決意をする。
裏社会の東と西の麻雀打ちがぶつかり合う、麻雀界最大の闘い・東西決戦へ参加することになったひろ。
しかし今回は、前回の東西決戦とは様相が違っていた。西に控えていたのは関西勢ではなく、中国・香港マフィア。豪華客船を舞台とした第二次東西決戦は、アジアのカジノ利権を賭けた日本と中国の代理戦争だったのだ。
参加者と彼らを見守る要人たちもそれぞれの事情と思惑を胸に、闘いの火ぶたは切って落とされた!
最新7巻は、東西決戦の第1回戦からスタート。持ち前の切れに加えて、熱さや周囲を思いやる心も身につけたひろの真剣勝負が描かれる。
かつてのひろを思わせる、東側の平良のキャラクターもおもしろい。
オリジナルの『天』を未見の読者でも、小気味いい麻雀対決とキャラクターたちの葛藤のドラマは読ませるのに十分。もちろん『天』や同作から派生した赤木の若き日の物語『アカギ 闇に降り立った天才』もあわせて読めば、さらに楽しめる。
福本作品でおなじみの「ざわ……」の擬音心理描写も、うれしいところだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。