そんな本作の魅力は、第一に「戦時下の青春」にある。たとえば第七話(単行本2巻所収)で、強面なイケメンである戸澤の、酒の席での「武勇談」が食事の席で先任搭乗員からバラされる。これなどは現代ドラマや実生活でよくみる、「ちょっと近づきがたい先輩の意外な一面」そのままだ。
同話では基地に迷い込んだ小犬を戸澤らはかわいがるのだが、あることをきっかけに色めきたつ。この感覚は、男子校や男子寮そのままである。
そうした一方で、あっけなく、さしたる見せ場もないまま死んでゆく者たちも多い。
そう、「70年前の青春群像」というキャッチコピーが示すように、本作は戦時下の物語。そこに生きる者たちは我々と同じ日本人だが、死は身近な存在にあることだけが決定的に違う。
本作のもうひとつの魅力は、三島氏による日本海軍へのフェティシズムだ。Twitterのプロフィール欄には「好きな帝国海軍機は一式陸攻」の一文もある。
第十一話のシルエットクイズは戦争映画好きにはニヤリとなるし、なにより「蒼龍」艦長・柳本柳作大佐がビジュアル化され、あまつさえ真珠湾攻撃前の胴上げまで描かれたマンガは本作だけではないだろうか!? ちなみにこの胴上げ、何人かの「蒼龍」乗員で「そういうのはなかった」「私は見た」と証言が食い違うのも戦記の奥深さである。
さらに特筆しておきたいのが、緻密なアナログ作画の魅力である。今のご時世で、「カケアミ処理された伝声管」は「吊りによる特撮」なみに珍しいのではないだろうか。三島氏入魂によるお着替えプロセスも要注目だ。
2015年8月6日に単行本第2巻が発売され、純粋なエリート・野々宮礼二郎やドス黒い感情の機関兵など、登場人物が出そろった感がある。
教育プロセスに兵学校と機関学校があり、じつのところ機関兵は、兵科・機関科と明確に「区別」されていた。命令系統を定めた「軍令承行令」では、戦闘で幹部が戦死した際も、機関将校は階級が下であっても兵科将校の指揮下に入ることも定められており(終戦1年前に改正)、制度上はもちろん差別的な感情もあったと伝えられる。現代では学歴社会がこれに相当するわけだが、まだ名も明かされない機関兵は今後、戸澤やあるいは正反対の立場にある野々宮とどうかかわるのか、個人的にきわめて興味深い。
なお、2巻の時点で「蒼龍」はポート・ダーウィン攻略の任務に就いており、史実としてはこのあとインド洋作戦など日本海軍の快進撃が続く。
しかし2巻の巻末に「ミッドウェー作戦まであと5ヵ月」と記されており、太平洋戦記を知る者は「蒼龍」や戸澤たちの行く末に心がざわついていることだろう。
「僕らだけが知っている未来を 君たちはまだ知らない--」第一話冒頭のナレーションは、2015年を生きる我々が本作を読む際、無意識にしかし常に抱く意識なのだ。
そして、まもなく70回目の終戦日。先人たちが残してくださった平和な日本で、本作を楽しもう。
『ヨーソロー!! -宜シク候-』著者の三島衛里子先生から、コメントをいただきました!
そんな気になる『ヨーソロー!! -宜シク候-』も掲載してる『このマンガがすごい!Comics 戦艦大和と零戦-日本海軍 激闘の記録』は絶賛発売中!!
<文・松田孝宏>
フリー編集者兼ライター。最近は『最後の証言記録 太平洋戦争』、『このマンガがすごい!Comics 特攻―太平洋戦争、最後の戦い』(宝島社)、『決断 ブルーレイBOX』(竹書房)などに参加。10歳の時に読んだ模型誌で、スマートな「蒼龍」にひとめぼれ。
Twitter:@matsu_am