第2部は「銭まみれ遺産相続編」。
コヤブが頼りにしている闇世界の先輩格、下品銀三には出戻りの一人娘・真季がいる。
その真季の元夫で、ライターの沢下一郎がバイクを運転中に接触事故に遭った。命に別状はなかったが、沢下は「相手の車が故意にぶつけてきた」と保険会社に主張する。
どうやら大阪イチの葬儀社「忌村葬儀社」を作り上げた忌村幽蔵会長の自伝執筆を、沢下が手がけていることが一因のようだ。
真季からの依頼を受けたコヤブは、青威を忌村葬儀社に送りこみ、内情を探り始める。
神も仏も全部ひっくるめて金に換えようと目の色を変える、清々しいほど利己的な悪党どもばかりが登場するが、その連中に立ち向かうコヤブにしても、善人とはほど遠い人物なのがキモ。
キャバレー時代は1週間で1割、ときにはひと晩で2割の暴利で同僚に金を貸し付けていた非情な男だ。
あちこちで仲間を裏切ったり裏切られたり、恨みを買ったり抱いたりしている。そんなコヤブも若くて純粋な青威と組むことで少しずつ誇りを取り戻し、これまでの経験を活かしてトラブルの解決に奔走するのだ。
心が弱っているときにうっかり占いや宗教に入れこみ、ふらふらと相手の言いなりになってしまったり、遺産をめぐってドス黒い思惑に巻きこまれることは決して他人事ではない。
コヤブたちが金の亡者を追い詰めるハラドキを楽しみつつ、悪党どもから身を守る防御力も自然とアップする、そんなひと粒で何粒もおいしい極上のマネーエンタメをご賞味あれ!
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしているライター。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)など。