平和で幸福で、どこか浮世離れした2人の世界との対比として挿入される、自衛隊、脱北者、銃撃戦……といったリアリスティックな題材も、効果的でうまい。
個人的には、日本古来の伝承を題材にしたファンタジックな世界観といい、現代のマンガやアニメの主流に背を向けた、ある種、過激なまでに古風な画風といい、高畑勲監督のアニメ『かぐや姫の物語』を、ついつい思い出してしまった。
人間の世界に憧れ、そこに自ら身を投じながらも傷つき、異世界へと帰っていった彼女たち。しかし、そこには「哀しみ」だけではなく、それを凌駕する「歓び」が色濃く描かれている。
人間という生き物は、欲と争いにまみれ、今も昔も「あること」への感謝を忘れ、「ないこと」ばかりを嘆き、己の幸福を確かめずにいられない。
その愚かしさを説きながらも、すべてをやさしく包みこむのが、原作にはない子どもたちのエピソードと、そこで歌われる
「さとの みやげに なにもろた
まあるい まあるい ひと と ゆき」
という子守り歌だ。
読みながら頭のなかで映像と音楽が流れてくるような、圧倒的世界観。
せつないながらも生への肯定にあふれた「罪と赦しの物語」を、ぜひ本を手にとって体験してほしい。
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<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69