episode.1は50ページ程度なのだが、そのなかにこれでもか! というほどのエピソードが詰めこまれている。
すでにこのepisode.1の段階で順平は夕子に告白までしてしまうのだが、それが先走った感もなく、恋に落ちるのも当然と思わせるだけの理由がしっかりと読者に伝わるのだ。
しかもそれを、無理なく楽しくスムーズに読ませてしまう、作者の力量たるやすごいものだと感じる。
さらにサイン会、撮影旅行と、いずれも猪苗代先生の関係で順平と夕子が同席するイベントが続き、2人の関係はワクワクするようなテンポで前へと進んでいく。
そうさせている大きな要因に、順平の「恋愛攻撃力」の高さがある。
たとえばこれ。
基本はにっこり笑って、でもときにはマジ顔で攻める順平。
そのギャップに、クールな仮面がついついはがれてしまう夕子。
とにもかくにもこのマンガ、胸キュン場面のオンパレードなのだ。
ときめきにあふれて、しかも読みやすくおもしろい。
少女マンガの王道を行くような本書だが、そこには興味深い点がいくつもある。
まずは、視点の切り替わり。
1巻では4話までが収録されているが、1・3・4話が順平視点であり、2話目だけが夕子の視点で描かれている。
男性目線の割合が多いというのも注目すべき部分だが、話ごとに切り替わるのは、順平と夕子がダブル主役という意味もあるのだろう。
両側から見ることで読者の共感も倍になって、200パーセントの感情移入でストーリーに没入できるということだ。
次に、彼ら2人を振りまわすトリックスター、「奇跡のヒットメーカー」猪苗代メグミの存在感。
なかなか正体不明のおじさまなのだが、普段にこにこしているぶん、怒らせるととんでもなく怖い。
それを見せるサイン会のくだりで、彼のファンになった人も多いはずだ。
またいつもはおちゃらけたイメージなのに、作品作りに没頭する場面の真剣さも魅力。
順平と夕子の間に立ってストーリーをぐいぐい引っ張るという、自分が描いている人気マンガのキャラもかくやというべきキャラクターなのだ。
加えて、マンガ全体に漂う明るくポジティブな雰囲気もいい。
すっきりした線で描かれる、明快なキャラクター。
大胆なコマ割りも多く、ネームや見せ場を作るのも巧みで、選びたいカットが多すぎて迷うこと迷うこと。
そんなぜいたくな悩みを味わわせてくれるなんて、すごいことだと思いませんか。
……とあれこれ書いてみたものの、このマンガの魅力は、このひと言に尽きる。
“とにかく、たっぷりときめいてください!”
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」