注目してほしいエピソードは「巡恋歌」と表題作「イタイほどかわいい」。07年発表の最古作と14年発表の最新作(ともに『マンガ・エロティクス・エフ』掲載)なのだが、世界観を共有する連作となっている。これには、せっかく作品集を出すのなら7年分の成長を見てほしいという阿仁谷の想いがこめられているという。
主人公は絶対に手に入らないモノしか好きにならないチエ。「巡恋歌」では不倫中の彼氏に手を出そうともくろむゲイが、なんと高校時代に恋焦がれた進藤クンだった……という設定。
ここから紆余曲折、くんずほぐれつして2人はお別れしたかに見えたのだが、続編の「イタいほどかわいい」では女友達(!)になっていた。しかもユルフワ系美女に大変身した進藤クンに対して、ショートカットのオナベ風に落ち着いたチエという、よもやの逆転現象が展開!
続けて読むと7年で画力も構成力も飛躍的にアップしていることが手に取るようにわかるが、劇中のキャラクターのイタさまで増幅しているのが興味深い。進藤クンの糞ビッチぶりはとどまるところを知らず、チエちゃんの倒錯ぶりは、もはや“これでいいのだ”と悟りの境地。
それでも2人の表情はとてもキラキラしていて、こちらまでニマニマしてしまう。イタさとエロさの先にある女の子の魅力を、最大限に引き出すことができる阿仁谷ユイジの作家性が全開となったオススメの逸品だ。
『阿仁谷ユイジ短編集 イタイほどかわいい』著者の阿仁谷ユイジ先生から、コメントをいただきました!
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
個人サイト ドキュメント毎日くん