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猛暑を吹き飛ばす(?)巨大人形ナナちゃんの鼻息がCOOL COOL COOL!! 【B級ニュース】

2016/07/05


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「名古屋の巨大人形ナナちゃんの鼻息」について。


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本WEB特派員がとらえた名古屋駅構内、ナナちゃんの鼻息噴射の瞬間! 名古屋市民もクールダウン!? パンチありすぎる……。(撮影=ふくだりの)

本WEB特派員がとらえた名古屋駅構内、ナナちゃんの鼻息噴射の瞬間! 名古屋市民もクールダウン!? パンチありすぎる……。(撮影=ふくだりの)

キミはナナちゃんを知っているかッ!?

ナナちゃんは、愛知県名古屋市の名鉄百貨店1階エントランス前に立つ、身長6メートル10センチの巨大人形である。
夏場には浴衣や水着、クリスマス商戦の時期にはツリー風ドレスを身にまとい、中日ドラゴンズや名古屋グランパスのユニフォームも着たりする“コスプレ好き”のナナちゃん。
昭和48年から43年もの長きにわたり、市民のランドマークとして愛され続けている。

そのナナちゃんが、猛烈な勢いで鼻息を出したのだッ!
6月29日から7月3日までのあいだ、10分おきに鼻から二酸化炭素をブシュ―――ッと吹きだし、周囲の空気をクールダウンしていたのである。これは名鉄百貨店の夏のクリアランスセールのPRの一環で「セールの安さに、ナナちゃん大コーフン!」といった様相を意味しているそうだ。
白い鼻息をブシュ―――ッと浴びながら、ナナちゃんに「あたしもNANAっていうんだ」と語りかける不審者が続出したに違いない!

といったわけで今回は、鼻息の荒いマンガを大特集。
マンガの場合、したり顔やドヤ顔を補強する記号表現として、鼻息が用いられることが多い。「フフン」とか“鼻で笑う”表現もよく見かけるだろう。
しかし、そうした記号表現を大きく逸脱した鼻息マンガを見ていこう。

鼻息よ、熱くキミを語れ!


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『蒼天航路』第33巻
李學仁(案) 王欣太(画) 講談社 ¥514+税
(2005年2月23日発売)

三国志を題材にした『蒼天航路』(原案:李學仁、作画:王欣太)では、「その三百六十八 姓は魏、名は諷」(単行本33巻収録)で魏諷(ぎふう)が登場。

魏諷は「崇息観」と呼ばれる、独特な呼吸法を駆使した新興宗教で同志を募り、打倒曹操のクーデターを画策する。
その呼吸法は、まるで気功や太極拳のようであり、ナナちゃんのように鼻から息を大きく吐きだす。彼の同志には「鼻息男」と呼ばれる男がいるほどだ。

この「魏諷の乱」は史実では219年に起きたが、『三国志演義』には記述がないため、大半の三国志作品では描かれることがない。
正史をふんだんに採りいれた『蒼天航路』ならではの鼻息エピソードなのである。


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『トリコ』第32巻
島袋光年 集英社 ¥400+税
(2014年11月4日発売)

マンガ史上“最強”の鼻息といえば、島袋光年『トリコ』に出てくる八王ヘラクレス。
たった一呼吸で大西洋の海水とほぼ同じ体積の空気を吸うという、トンデモないバケモノだ。

「グルメ285 vsヘラクレス!!」(コミックス32巻収録)でトリコは「のろま雨の丘」をめざす小松をアシストするため、八王ヘラクレスと対峙した。
ところが、なんとヘラクレスの鼻息ひとつで、身体の2割ほどが削りとられて即死してしまう!

バケモノ肺活量から吐きだされる鼻息は、大地を削りとるほどの威力を秘めていたのだ。
それにしても、鼻息で死亡した主人公も、おそらくマンガ史上では初めてではないだろうか!?


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『ちくま文庫 京極夏彦が選ぶ! 水木しげるの奇妙な劇画集』
水木しげる(著) 京極夏彦(編) 筑摩書房 ¥900+税
(2001年6月発売)

そしてマンガ界のレジェンド鼻息は、水木しげる御大につきる。
水木マンガでは鬼太郎もねずみ男もサラリーマン山田も、みんな鼻からフハッと息を出しているのだから、鼻息マンガの金字塔といえるだろう。

なかでも鼻息荒い作品が、「鬼太郎霊団」シリーズの第2話『ゲゲゲの鬼太郎 セクハラ妖怪いやみ』(ちくま文庫『京極夏彦が選ぶ! 水木しげるの奇妙な劇画集』収録)だ。

“いやみ”とは、色気によって人を自由にあやつる妖怪である。
“いやみ”が気体になってヨロケ電気にとりついたせいで、会社全体が色気に支配され、社内でセクハラが蔓延してしまった。以前は堅物だった社長も、エレベータ内で女性社員の尻をさわったり、社長室で秘書の胸をもんだりと、やりたい放題である。
このままでは会社が「色気倒産」すると案じた秘書・桃山は、ねずみ男に相談し、そこで鬼太郎軍団の出番となる。

本作が「漫画サンデー」(実業之日本社)に掲載された1997年は、バブル崩壊後の10年不況のまっただなかで就職氷河期といわれた時期。企業の倒産もあいついだが、まさか「色気倒産」なる言葉が存在するとは思わなかった!

そして“いやみ”の手先として鬼太郎軍団と戦うのは、全裸の「色気ねえさん」たちである。
色気ねえさんたちはオッパイミサイルよろしく乳房を発射! ノックアウトされた鬼太郎は「バカにオ○○コ臭いな」などとボヤく。
おい鬼太郎、ナニ言ってンだッ!!

さらに色気ねえさんたちは股間から男根砲を発射し、鬼太郎軍団は壊滅寸前に追い込まれ、猫娘にいたっては男根を食べようとする始末。砂かけ婆の「猫娘こりゃあ食べ物じゃねえ!」のセリフがジワジワくる。
鬼太郎史上、最低のド下ネタバトルが展開するこの回は、もちろん鼻息がラストを飾る。鼻息〆である。

ちなみに、この「セクハラ妖怪いやみ」は、水木御大が亡くなったいま、事実上の鬼太郎シリーズ最終話となった。


いよいよ夏到来、気温もグッと暑くなってきました。
ナナちゃんの鼻息フェアは終わってしまったので、鼻息を浴びて涼むことはできなくなったけれど、しっかりと水分をとって、猛暑を乗りきりましょう。
セクハラで鼻息を荒くするのは、ダメ絶対!



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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