「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、『orange』
タイムカプセルを掘り起こす、5人の男女。
26歳の彼らが、16歳の時に未来の自分宛に書いた手紙が入っている。しかし手紙は6通で、ひとり足りない──。大人気の同名コミックが原作のアニメ『orange』は、そんな5人のうちのひとり、高宮菜穂(たかみや・なほ)の切ないモノローグで幕を開ける。
時間は10年前にさかのぼり、高2の始業式の日、菜穂のもとに手紙が届く。
送り主は10年後の菜穂だと書かれており、綴られた内容のとおり、東京からの転校生の成瀬翔(なるせ・かける)が現れ、菜穂と、同じ仲よしグループのサッカー好きで大柄な須和弘人(すわ・ひろと)、パン屋の娘でギャル風の明るい村坂あずさ(むらさか・あずさ)、黒髪でクール美女の茅野貴子(ちの・たかこ)、真顔でギャグを飛ばすメガネ男子の萩田朔(はぎた・さく)と交友を深める。
先に起こることを次々言い当てている手紙を、菜穂が戸惑いながら読み進めると、翔が17歳の冬に亡くなるとの衝撃的な記述が! それを避けるために菜穂がとるべき行動も、事細かに書かれている。しかし菜穂の控えめな性格のため、またはその場の雰囲気によって言い出せないこともあり、手紙どおりの行動を完全にとれないことも。
すでに取り返しがつかないことも起こっている。それでも、手紙通り翔を好きになった菜穂は、球技大会で代打を引き受けたり、翔にお弁当を渡したりと、勇気を出して翔を救うために奮闘する。
SFミステリー調だが、ただファンタジックなだけでなく、高校生らしいピュアな恋愛や友情、さらにだれもが抱える「後悔」が共感を誘う。
菜穂が一歩踏みだすたびに、観る側も背中を押されるかのようだ。
原作や、土屋太鳳主演の実写映画版などで結末を知っている人にもTVアニメを見てほしい。学校生活の丹念な描写や、公園で翔が菜穂に母親について打ち明けるシーンではシャボン玉が舞い、「涙」や「命」を印象付けるなど、アニメならではの繊細な演出にぐっとくる。
舞台となる長野県松本市の緑豊かな情景も鮮やかに描かれ、ご当地らしいショットも満載だ(特に「松本ぼんぼん」を歌う女子3人がカワイイ!)。それを背景に高校生活を送る彼らは輝いている。だからこそ、6人で笑っていてほしいと願わずにいられない。
しかし、手紙の指示に応える菜穂によって少しずつ翔の行動も変わり、書かれている未来とのズレも生じていくことが判明する。
この難しいジレンマのなかで、翔を救えるのか? また、須和と結婚して子供もいる26歳の菜穂は決して不幸せには見えない。過去が変わり、菜穂が想いを寄せた翔を救うことができたのなら? そもそも、どうしてこの手紙が届いたのか? そんなことに考えをめぐらせる一作。
謎と不安と、青春の甘酸っぱさが絶妙にブレンドされた『orange』の、一瞬たりとも気の抜けない日々を、一粒一粒かみしめていきたい。
『orange』のアニメを観たあとに……
何を隠そう、「このマンガがすごい!WEB」は、マンガの情報サイト! そんなわけで、アニメ『orange』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガを紹介しちゃいますよっ。
『orange』高野苺
『orange』第1巻
高野苺 双葉社 ¥620+税
(2013年12月25日発売)
アニメでの結末が待ちきれない方は、すでに完結している原作をどうぞ。
「別冊マーガレット」連載当初から話題を呼び、連載途中から「月刊アクション」に場を移し、少女マンガと青年マンガの両方の読者層から高く支持され、「このマンガがすごい!2015」オトコ編でもランクインしている。
すべての謎や伏線がしっかり回収されていく快感に震え、後半の展開を知ってからまた読み返すと、さらに楽しめる! 男女問わない友情の輝きをごらんあれ。
一方で翔が抱える闇と、はたから見れば小さなことが重なってそれに呑みこまれる様は痛々しい。そんな高校生の翔や菜穂たち、また、後悔を抱えて大人になった5人も含めて「救う」ことの真の意味について考えさせてくれる。
『orange』のコミックス以外に、このマンガもおすすめ!
『未来日記』えすのサカエ
『未来日記』第1巻
えすのサカエ KADOKAWA ¥540+税
(2006年7月21日発売)
「未来がわかる」ならば、自分に有利に物事を進めるのはたやすい。そんな神のような力をめぐって、熾烈なバトルが繰り広げられるのがこちら。
内気な中学生、天野雪輝の携帯電話(二つ折りのガラケー)に、未来に起こる出来事が日記形式で表示されるようになり、否応なしに同様の日記所持者同士のサバイバルゲームに巻きこまれていく。手紙と違い、デジタルな画面に現れるテキストはだれかが行動を起こすたびにその都度変わり、それぞれの日記の形式もバラエティに富み、お互いの手の内を読みあう戦略の巡らせぶりも見どころ。
容赦ない死も少なくないが、根幹の部分は狂おしいまでの愛の物語、ともいえる。
『僕等がいた』小畑友紀
『僕等がいた』第1巻
小畑友紀 小学館 ¥390+税
(2002年10月26日発売)
こちらも、ていねいな日常描写や、陰のある男子とのつらい初恋を描き、映画化やアニメ化もされた人気少女マンガ。
高校に入学した高橋七美は、非常にモテる矢野元晴とつきあうことに。しかし矢野には最初の彼女と死別しており、その妹で同級生の山本有里とも、何か秘密があるらしい。
のちに、七美と矢野は遠距離恋愛となるが、矢野からの連絡は途絶えてしまう。社会人になった七美は矢野の親友だった竹内匡史とつきあうが……?
いくつもの三角関係が絡みあう複雑な恋愛模様、家族にまつわる新たな苦悩を背負った矢野の行く先にハラハラしながら、傷だらけになっても、変えられない過去を乗り越えていく七美の強さと、それを支えたふたりの日々の「重み」に、泣かずにいられない!
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。