ユーモア・エッセイ『どくとるマンボウ』シリーズなどでおなじみの北杜夫が自身をモデルに書いた同名小説が、ついに映画化!
現在、まさに本サイト内で同映画のマンガ(作画:大橋裕之氏)を公開中、もちろん映画も絶賛公開中の『ぼくのおじさん』を、特別レビューしちゃいますっ。ぜひ本レビューを読んで、映画館に足を運んでみてください。
映画『ぼくのおじさん』
本作は、『どくとるマンボウ』シリーズでも知られる作家・北杜夫による児童小説を映像化した作品だ。小学4年生の春山雪男(はるやま・ゆきお、演:大西利空)を語り部に、春山一家に居候するさえない“おじさん”のどうにもダメダメな日常と、ハワイにおけるちょっとした冒険、そして愛らしいロマンスの模様を綴っていく。
松田龍平演じる“おじさん”は、原作者自身の体験が多分に投影されたキャラクターだ(北杜夫も若い頃、兄夫婦の家で居候をしていた)。大学で臨時講師をつとめるインテリながら、私生活ではとにかくだらしのない怠け者。口を開けば屁理屈ばかりで、お金もロクに持っておらず、非常にケチだ。……こう書くとまるで救いがないのだが、基本的には悪気のない人間であるし、それなりにチャーミングな部分だってないではない。
ダメダメだけど、でも憎めない――つまり、“おじさん”はそのような人物なのである。
映画の前半は、そんなダメダメな“おじさん”としっかり者の雪男の、ちょっと「トホホ」な日常を、小気味よくコミカルに描いていく。舞台は現代だが、劇中のおおらかなムードはどこかノスタルジック。ゆるやかで優しい空気にほのぼのと癒されてしまう。
そして中盤からは、物語も大きく展開。少々ワケありの美人写真家・エリー(演:真木よう子)と出会い、恋に落ちてしまったことから、“おじさん”と雪男の二人は、彼女のいるハワイを目指して旅立つことに――。この時、貧乏な“おじさん”がどのような手段でハワイ行きを画策したか、ぜひ劇場でその「セコすぎる」プランを確認してほしい!
「ダメな大人」といわれながらも、等身大で素直に生きる“おじさん”の姿は、もちろんユーモラスでもあるし、そしてある意味、痛快でもある。もしかすると原作が発表された当時(1972年)以上に、現代の人々の心に刺さるものがあるかもしれない。
また、そんな自由な“おじさん”と雪男の名コンビぶりが本当にすばらしい。「親子」とも「兄弟」とも違う、そのちょっとフシギな距離感の心地よさが、見ている人間にしっかりと伝わってくる。人によっては自分の記憶、小さい頃に大好きだった“だれか”の記憶と結びつき、思わずホロリとしてしまうかも?
監督は『リンダリンダリンダ』でその才能を広く世に知らしめ、近年も『味園ユニバース』や『オーバー・フェンス』など秀作を発表し続けている山下敦弘。独特の、鋭くも温かみのある人間描写は本作においても健在だ。その演出の技を存分に発揮し、登場人物それぞれと、その互いの関係性を非常に魅力的なものに描き出している。
また、本作においてはプロデューサーにも要注目。『探偵はBARにいる』シリーズで知られる須藤泰司(東映)がプロデュース&脚本をつとめ、作品の世界観を支えている。
映画『ぼくのおじさん』は、11月3日(木・祝)より、全国の劇場にて公開中。
『北杜夫 マンボウ文学読本』
宝島社 ¥1200円+税(2016年11月4日発売)
2016年11月3日(木・祝)公開の映画『ぼくのおじさん』の原作者である作家・北杜夫の生涯と作品を検証、その人物像と功績を再検証していく1冊。
<内容>
妻・斎藤喜美子氏インタビュー
娘・斎藤由香氏 寄稿 「ヘンテコリンが好きだった父」
歌人・山田航氏の短歌評 「歌人としての北杜夫 茂吉の歌と宗吉の歌」
解剖学者・養老猛司氏インタビュー
作家・畑正憲氏 ご寄稿の詩 「北讃歌」
作家・堀江敏幸氏 寄稿 「堀江敏幸が読み解く『北杜夫』の文学」
精神科医・春日武彦インタビュー「精神科医が読み解く『北杜夫』」
ドイツ文学者・伊藤白 寄稿 「北杜夫とトーマスマン」
同級生対談 辻邦生×北杜夫 対談
手塚治虫×北杜夫 対談
遠藤周作氏&佐藤愛子氏&北杜夫 鼎談 など盛りだくさん
著作のみならず、北自身の人生、交友関係、家族との関係性と、多面性こそが魅力である「北杜夫」という作家に迫ります。
さらには、本サイト内でも公開中の大橋裕之氏による『ぼくのおじさん』のマンガも収録されています!
ぜひ、映画とあわせてお楽しみください!