また今巻では、与太郎が「死神」を演るところも見どころのひとつ。
会場のこけら落としと襲名披露という華やかな場で「死神」をかけるなんて……と思うかもしれないが、じつは祝いの席で「死神」を演る落語家は少なくない。特に正月などは「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし」とのマクラを振ってから「死神」に入るのが、そのケースでの“お決まりだ”。ましてや「死神」は師匠の十八番。
だから与太郎の贔屓筋からすれば「よ、やりァがったな」てなもんである。
なお、与太郎による死神の所作(145ページ)は八代目のソレ(9巻132ページ)の生き写しであるかのようだ。噺のクライマックス(146~147ページ)は八代目の芸(9巻136~137)と瓜二つで、この噺が師匠譲りあることがうかがえる。
「死神」を演りたくて弟子入りした男が、物語の最後に「死神」を演る。
シンプルにして「当然の帰結」を、これだけのスケールで説得力をもって描ききったところに、この最終回のすごさがある。普段は陽気に見える与太郎も、一個の芸人として、芸の神様に魅入られ、落語家としての宿業を背負っていることにも気づく。
血も家も、人も芸も業も、何もかも受け継がれていった。
The show must go on. 高座の幕は上がり続ける。
師匠の領域に足を踏み入れたことは、与太郎に何をもたらすのか。
最終回を迎えた今、われわれ読者は与太郎たちの“その後”を、それぞれの胸の内に思い描かずにはいられない。
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<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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