日本人ならばだれもが学校で習う、日本の歴史。2009年には「歴女」が流行語になるなど、近年あらためて日本の歴史に関心が集まっている。 今回は、歴史マンガを熱心に研究している、「このマンガがすごい!」でもおなじみのライター・加山竜司さんに、個性の際立った「黒田官兵衛」が登場するマンガ作品をうかがった。 [※2013年から2014年7月に発売されたマンガ単行本のなかから選出をお願いしています。今回は特別に雑誌からの選出もあります。]
さらに、2014年は、NHK大河ドラマで『軍師官兵衛』が放送され、黒田官兵衛を主人公にしたマンガ作品が急増! 過去の官兵衛登場作品も、コンビニ・コミックや増刊誌などで数多く出版された。
いずれの作品も、史実において語られてきた「官兵衛のパブリック・イメージ」を踏襲しつつも、マンガならではのオリジナリティを発揮しものばかりだ。
加山竜司さんイチオシの3作品!
『後藤又兵衛 黒田官兵衛に最も愛された男』 かわのいちろう
『後藤又兵衛 黒田官兵衛に最も愛された男』第1巻 かわのいちろう
リイド社 かわのいちろう \571+税
(2014年3月27日発売)
『名将言行録』には、官兵衛が家臣に博打禁止令を出すエピソードがある。
禁止令を無視して博打で朝帰りをした家臣を、咎めることなく、慈悲深く諭す逸話だが、この話とは裏腹に、官兵衛を「賭博師」として描くフィクション作品の流れがある。
代表例としては、坂口安吾『二流の人』が挙げられる。この作品の官兵衛は、自身を「賭博師」、野心を捨てきれない「戦争マニヤ」と自称する。
『二流の人』にインスパイアされた武田鉄矢が、「二流の人」(海援隊)という歌を作っていることでも有名だ。
本作は、官兵衛の部下・後藤又兵衛の目をとおして黒田官兵衛が語られるが、この「賭博師」としてのイメージを受け継いでいる。さらに勾玉の首飾りをしていたり、片眼を隠していたり、呪術的な側面も強く打ち出されており、ヤマっ気のあるシャーマン風味といえる。
清廉潔白なNHK大河(岡田准一)とは大違いなのもポイント。
『軍師黒田官兵衛伝』 重野なおき
『軍師黒田官兵衛伝』第1巻 重野なおき
白泉社 重野なおき \571+税
(2014年1月29日発売)
重野なおきが描く『信長の忍び』のスピンアウト的な作品。
登場人物のキャラクター性は、『信長の忍び』と同様である。官兵衛が側室を持たなかった(正妻のみがいた)史実をフォーカスし、「愛妻家」としてキャラづけている。
このように、史実でのファクターを現代風に読み替えて、人物像を練り上げるのが『信長の忍び』からの共通項。おおげさな誇張表現も、ギャグマンガだからスンナリと受け入れられる。
とかく戦国モノは登場人物が多く、人物関係が煩雑になりがちだが、わかりやすいキャラづけのおかげで、混乱することなくスムーズに読み進めていける点がすばらしい。
基本的にはギャグマンガだが、本作で採用しているエピソードは史実に準拠。さらに、『夢幻物語』や『黒田官兵衛傅』を出展とするような、現在では疑わしいとされる逸話(先祖が目薬屋だった説など)もすべて盛り込んでおり、「官兵衛について歴史的に評されてきた逸話」をあますことなくフォローしている。まさしく「オール・アバウト・官兵衛」といったところだ。
4コママンガなので、歴史マンガ特有の冗長さもなく、あまり歴史に詳しくない読者にもオススメしたい。
「軍師・黒田官兵衛~戦国謀略図」2014年5月号(メンズスパイダー増刊)
「軍師・黒田官兵衛~戦国謀略図」2014年5月号(Men's SPIDER増刊)
リイド社 \370円+税
(2014年4月3日発売)
※現在は品切れとなっております。
雑誌ではあるが、ぜひとも紹介したいのが、Men's SPIDER5月増刊号として刊行された本作。
初出は1978年の「200円ロードショウ劇場」(リイド社)である。この「200円ロードショウ劇場」は、さいとう・たかを作品の歴代キャラクターを役者に見立て、別作品に別の役で登場させるという企画雑誌。手塚治虫でおなじみの「スター・システム」のさいとう・たかを版、といったところか。
本作の主役・黒田官兵衛は、「別冊プレイコミック ビッグまんがBOOK帰ってきたヒーロー特集号」(秋田書店)の『無用ノ介』に登場した賞金首がもとになっている。
といっても想像しにくいだろうが、外見的にはゴルゴ13を思い浮かべてもらえば大丈夫。(「ビッグまんがBOOK」は、様々な作家のヒット作品の外伝を読切で掲載した企画誌。ちなみに、ドラマ『アオイホノオ』のホノオ君の部屋の本棚にも、この雑誌が1冊だけ見当たる)。
官兵衛が有岡城に幽閉されたとき、信長は人質の松寿丸(官兵衛の息子・のちの黒田長政)を殺害するように命令している。史実では、秀吉の軍師・竹中半兵衛が匿っていたのだが、本作では、なんと秀吉が命令どおりに松寿丸を殺害してしまう。
そして官兵衛が有岡城から救出されたとき、秀吉はまったくの別人を松寿丸として官兵衛に引き合わす。すると官兵衛は秀吉を「息子の仇」として恨むようになり、秀吉が失脚するような策を献じていくのだが……。官兵衛の思惑とは裏腹に、悪運の強い秀吉は着々と成功を収めていく。
見ようによっては「ドジっ子軍師」なので、妙に萌える。ゴルゴ顔だが。
歴史的事実を題材にしながらも、その裏舞台へとイマジネーションを広げ、「語られなかった歴史の裏側」をフィクションとして成立させる手法は、まさしく『ゴルゴ13』節といえる。
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