ただでさえキャラの濃すぎる武将たちは、特殊能力である「思力」を使う。要するに能力バトルであり、山田風太郎の忍法帖シリーズ以来の歴史あるジャンル。しかし作者いわく「能力パラメータを全部喧嘩の強さに変換」したゲージが振り切れていて、前田利家の思力が城ぐらいの巨人を出現させたり、大谷吉継が包帯を操るミイラだったり、「一騎当千」という比喩がこれほど自由に解釈された前例はなさそうだ。
こちらの家康も「人の一生は重き荷を背負いて~」と人生訓をいう。物理的に“重き荷”である巨大な岩を背負った筋トレの時に。そして諸大名と姻戚関係を結ぼうとする。大名屋敷に怪力で殴り込んで「わしら親戚ィ?」と姫をさらってきて。他の武将にも厚く信頼されている、「内府が目指すは地上最強! 天下を狙うなどありえん!」みたいな方向で。恐ろしいことに、史実とだいたい合ってる。
単行本最新第3巻では加藤清正や福島正則らとの争いで(家康アッパーで)喧嘩両成敗された三成も、筋肉がすべての世界で「大義なき理想国家などありえん!」と目覚めたのだから、主人公の資格は十分。ピエロのような姿で暗躍していた黒田長政の意図もいよいよ明らかになり、背後にいた謎のボスも……。
今年の大河ドラマの主役がわかる前に黒幕の正体を決めていたとしたら(連載は平成24年スタート)、長谷川先生も未来を読む「思力」の持ち主ではなかろうか。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。