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『陰陽師 玉手匣』 第7巻 夢枕獏(案) 岡野玲子(画) 【日刊マンガガイド】

2017/08/26


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『陰陽師 玉手匣』



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『陰陽師 玉手匣』 第7巻
夢枕獏(案) 岡野玲子(画) 白泉社 ¥990+税
(2017年7月28日発売)


岡野玲子版『陰陽師』全13巻の続編となる『陰陽師 玉手匣』
復活した安倍晴明が相棒の源博雅とともに酒呑童子伝説に関与していくさまを主軸に物語られる。
本筋そのものが晴明の妻の真葛が書き出す作中作として繰り返し描かれているが、源頼光らによる酒呑童子成敗の伝説は作中世界の時代よりもやや未来の出来事であり、晴明自身も「そのときのおれはご老体だからな」というような発言をしているなど、メタフィクショナルな仕掛けと意図的なタイムパラドックスへの挑戦がみられる複雑な構成となっている。
連載では5年を要したこの全7巻の物語は、主軸となる「酒呑童子討伐」の流れだけを追うとたった一晩の出来事であり、そこにスケールの異なる時間構造が巧みにおりこまれている。

本編に引き続き、濃密な取材にもとづくマニアックな世界観もあいまって難解な側面もあるが、絵柄やキャラクターたちの性格は柔和でユーモラスであり、世界観や語り口の崇高さや壮大さと好対照をなす。

酒呑童子伝説とは、山に棲まう盗賊団の頭目にして鬼たちを統べる最強の鬼「酒呑童子」が京を脅かし貴族たちの姫君を拐かす事件が起き、源頼光らがその討伐にあたったというもの。
「まさかりかついだ金太郎~」の童謡で知られる坂田金時(公時とも。通称:金太郎)や、「鬼退治によって鬼に恐れられるようになったために、渡辺姓の人は節分には豆をまく必要がない」という特例のもとになった渡辺綱たち「頼光四天王」が登場する。

先述のとおり作中で晴明も認めているように、この伝説で酒呑童子の居場所を占うのはすでに老境を迎えた晴明である。著者はそこに古典『古今著聞集』の1エピソードに着想を得た「匏(ひさご)と暗闇丸(くらやみまる)」という神秘的な盗賊の夫婦を登場させ、その時間軸を 「遠い昔とも遠い先ともわからぬそんな時」と不確定にする。
この操作よって本来ならば同時にいるはずのない、頼光たちと青年の晴明たちとが一度に酒呑童子と匏たちという「盗賊団」にあいまみえるというアクロバティックな画面が可能になった。

遠大な宇宙観のもと天空の星々がまわる様子を学ぶ「天文博士」とは、晴明を初代とする役職のことだが、それは運命や時間のことわりを知り、また対処する力を持つことなのかもしれない。
そしてその調和を象徴するのが、晴明の相棒である博雅の奏でる楽の響きだ。琵琶や笛などを博雅が奏でると、悲しみや憎しみにとらわれた鬼や怪異は童子のように感動し、喜び、救われる。

やがて酒呑童子が「成敗」されると、今度は匏を追っていた源満仲(頼光の父)に射られた匏が海に落ち、物語は天女伝説と交錯する。伝説を語り直しながら物語は進み、最後は京都北部の名勝「天橋立」の景観を描きながら、第1巻から描かれ続けた「匏と暗闇丸」夫婦の物語も幕を降ろす。
重ねあわされた物語は、古代丹波王国(丹後王国)系統と摂津国系統による勢力争いや、さらにはイザナギ・イザナミの国造り伝説にまでおよぶ。
クライマックスにふさわしい大展開。古代史や古代宗教、古典に明るい読者に強くオススメしたい。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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