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『フォーナイン ~僕とカノジョの637日~』第1巻 莉ジャンヒュン 【日刊マンガガイド】

2014/11/19


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『フォーナイン ~僕とカノジョの637日~』第1巻
莉ジャンヒュン 小学館 \552+税
(2014年10月30日発売)


2年間の兵役に就いた韓国人の大学生・ハンと、その恋人である日本人留学生のさおりを主人公とした異色の“軍もの”コミック。
掲載誌の「ビッグコミックスペリオール」が主宰している新人オーディション出身の韓国人漫画家・莉ジャンヒュンのデビュー連載作品である。

 

ハンとさおりのそれぞれの現在の生活とともに2人の過去をクロスオーバーさせていく構成で、ドラマの縦軸はもちろん別離した主人公カップルの恋の行く末……なのだが、恋愛要素そっちのけで「おおっ!」と目をひかれてしまうのは、ハン視点で描かれるフルメタル・ジャケット生活のエゲツなさ。

理不尽すぎるシゴキの数々で新人兵士たちが皮膚感覚的に追い詰められていくさまは、さおりを残して兵役に就くハンに、「お前、交際間もない日本人の彼女がいるのに軍隊に行くなよ!」とムッとなって読み始めるも、シゴキの洗礼をひととおり受ける1巻の中盤あたりから、「いや、もう十分ひどい目にあってるし……」とついつい謎の同情モードが発動してしまうほど。

「韓国軍には頭と足でバランスを取る“テグリパックア”なる有名なシゴキポーズがある」「韓国の男は日本のAVのせいで日本女性にロマンを抱いている」など、作中のあちこちに登場する韓国&軍隊マメ知識も臨場感アップに一役買っている(気がする)。

国籍が違う2人の別離がもたらすのはキム・ギドクばりの大悲劇なのか、それとも韓流メロドラマ方面なのか?
今後の恋愛ドラマとしての狙いどころも気になるが、個人的に、初期のハロルド作石を彷彿とさせる「顔面力」たっぷりのブリブリした画風(わかりにくいたとえ)に大きな魅力と将来性を感じる。
絵もテーマもかなりの異色派だが、アプローチそのものは「マンガにとって誠実」に見えるあたりが頼もしい。

最近、エモーショナルなマンガを読んでないなぁ~という人にオススメです。



<文・大西祥平>
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』(洋泉社)、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』(青林工藝舎)など。「映画秘宝」(洋泉社)誌ほかで連載中。

単行本情報

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