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12月9日は「三毛別羆事件」が起きた日 『ザ・ワールド・イズ・マイン』を読もう! 【きょうのマンガ】

2014/12/09


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『ザ・ワールド・イズ・マイン』第1巻
新井英樹 小学館 \486+税


1915(大正4)年の12月9日、北海道苫前の三毛別(現在の苫前郡苫前町字三渓)にて、痛ましい出来事が起きた。冬ごもり前で腹を空かせたヒグマが、開拓民の小屋を襲撃したのだ。
体長2メートル70センチ、体重380キロ、二足で立ち上がったときには3メートル50センチに達する巨大なヒグマは、14日に射殺されるまでのあいだに7人を殺害。さらに3名の重傷者が出た。
ヒグマ退治のために、旭川の陸軍も投入された。これが日本でも未曾有の熊害事件とされる「三毛別羆(ヒグマ)事件」である。

熊害を扱ったマンガ作品は佳作が多い。
「週刊少年ジャンプ」に連載され、テレビアニメ化もされた高橋よしひろ『銀牙 流れ星銀』は、後半は忍犬同士のバトルマンガになるが、前半は人食い熊・赤カブトを退治するストーリーが核だ。
また、三枝義浩『キムンカムイ』は、さながら動物パニック映画(『ジョーズ』とか『ザ・ヒル』など)のようなタッチで、被害者の目線から熊害事件を扱った。タイトルの「キムンカムイ」とは、アイヌ語で「山の神」を意味し、彼らはヒグマのことを「キムンカムイ」と呼んで畏れた。
そういえば、荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』でも、ヒロイン・御影アキの祖母が、開拓民が熊に襲われた話を訥々と語るシーンが印象的だ。

だが、マンガ史上最悪の熊害といえば、新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』に出てきた「ヒグマドン」がもたらしたものだろう。
人を殺すことに罪の意識を感じない主人公・モンちゃんと、モンちゃんに憧れる爆弾魔のトシが、殺人とテロを繰り返しながら本州を北上していくという、映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)さながらの残酷ロードムービー的作品が、『ザ・ワールド・イズ・マイン』である。
“トシモン”の凶行はメディアに取りあげられ、やがてモンは世界中のテロリストのあいだでカリスマとなっていく。トシモンの殺戮ふたり旅と時を同じくして、怪物・ヒグマドンが民家を襲い、北海道から本州を南下していく。トシモンとヒグマドン、両者の破壊と殺戮が同時に進行し、やがて邂逅する……。

ヒグマドンによる被害は、はじめはヒグマによる仕業だと思われていた。ただ、化け物(怪獣)クラスの大きさが想定されたため、ニュース番組などで「ヒグマドン」と呼称されたのである。
しかし、その姿は途中まで描かれない。それこそモキュメンタリー怪獣映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008年)のような手法で、足跡や糞や爪痕といった痕跡だけが描かれる。

そしてヒグマドンが正体をあらわすと、はたしてその姿は熊のようでもあるが、しかし別種とも思える。まさに「謎の生物」としか言いようがない。
そこからは、怪獣特撮映画のような破壊のスペクタクルが描かれる。人物にしても背景にしても、徹底して細部にこだわる画風だからこそ、テロや怪物といったフィクションも真実味を帯びるのだ。 この圧倒的な力を持つヒグマドンは、ただのモンスターにあらず。さながら初代ゴジラ(1954年)を彷彿とさせる、超越的で超自然的な存在として、畏敬の念を抱かれるような存在である。猛り狂う山の神、というべきだろうか。
こうした初代ゴジラのイメージは、今年2014年に公開されたハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』でも強調されたので、記憶に新しいところだ。
ちなみにヒグマドン退治で重要なキーワードとなるのは、ゴジラと同様、やはり「核」である。

『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、とにかく残酷で、難解で、そして読者の倫理観をザワザワとさせる挑戦的な作品だ。その読み方や解釈の仕方はさまざまだろう。アメリカ同時多発テロ事件(9.11)以降の現在だからこそ、連載当時(1997年開始)とは違った読み方もできるはずだ。
現在、連載時から大幅に加筆修正された『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』が出版されているので、未読の方にはこちらをオススメしたい。
また、作中ではトシがさまざまな映画について言及したり、映画の台詞を引用したりするので、そちらもあわせて鑑賞してみよう。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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