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『はるみねーしょん』第5巻 大沖 【日刊マンガガイド】

2015/04/02


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『はるみねーしょん』第5巻
大沖 芳文社 \819+税
(2015年2月27日発売)


ミニマリズム(最小限主義)における、装飾やノイズを極限にまで排除し表現を純化するというコンセプトは、一般的な形式の作品からでは見出しづらい、隠れたメディアの特性をあぶり出す。
アニメにせよマンガにせよ、ゼロ年代に隆盛した俗に「日常系」と呼ばれる作品群もまた、そうした――モダニズム的にせよそれ以外にせよ――果敢な実験の一翼を担ってきた。

「まんがタイムきららキャラット」(芳文社)連載の、大沖による『はるみねーしょん』は、三上小又『ゆゆ式』やカヅホ『キルミーベイベー』などと並び、その極北に位置づけられるだろう4コマ作品である。

なぜ極北と言えるのか。まずは作品をご存じない方へ向け、既刊分の物語を詳細に説明しておこう。
細野はるみ(宇宙人・飛べる)と高橋ユキ(地球人・冷静)と坂本香樹(地球人・メガネ)という女子高校生3人(括弧内のキャラ説明は単行本記載のオフィシャルなもの)が、教室のなかなどで他愛もない会話を繰り広げる――。
これをもって、第4巻までの展開、すべてのネタバレが完了する。3人が交わす会話という、最小単位のエレメントから構成される、非物語的物語。

もちろん、連載開始当初はまだここまで、表現の純化が完遂されてはいなかったろう。
第1巻を見てみれば、3人のあいだで交わされる会話以外にも、教師が発する出欠確認に答えたり、ファミレスの店員と注文のやりとりをしたりといった、相対的にドラマティックな展開が存在していた。しかし第2巻以降、メインキャラ以外の者がコミュニケーションに介入することは周到に回避され続ける。
しいて言えば、第4巻におけるユキの妹・アキという、3人以外でただひとりの名前を持ったキャラの登場だけが、『はるみねーしょん』史上唯一にして最大の劇的展開と言えるものだった。

舞台設定もまた同様だろう。『はるみねーしょん』においては全編にわたり、教室などの日常的な場所のみで会話が展開する。
3人で外出をすることはあっても、町の近隣から出ることはない。遠出といえばせいぜい、はるみが宇宙へ飛んでいくくらいのものだ。

余剰のそぎ落としは、作画の面においても徹底されている。『はるみねーしょん』においては、キャラの表情やポーズ、背景、レイアウトのパターンまでがほぼ数種にかぎられ、個々のコマはもっぱら、それらの組み合わせによって生成されてしまう。
われわれは、背景に描かれた木目のわずかな差異を発見することで、それらがコピペではないことを理解し、胸をなでおろすこととなる。

では、最新5巻はどうだろうか。
むろん基本コンセプトは上述のストイックなスタイルのままだ。単行本の帯に「待望のハワイ編、開幕!」との文字が踊るのを見つけても、実際にハワイ旅行が描かれるなどと思う者はいなかっただろうし、第3巻のころから萌芽を見せはじめた写実性の高い扉絵とは対照的に(51ページのカナアミこと西村ツチカ風カケアミ表現など、見どころは多い)、本編作画の簡略化にはよりいっそう磨きがかかっている。

象徴的なのは、第5巻の83ページから88ページまでの第13話目(『はるみねーしょん』においては、4コマごとのそれはもちろん、各回ごとのサブタイトルがなく、そのうえ第何話なのかというカウントすら存在しないため、自力で数えました)で描かれた、香樹(地球人・メガネ)がメガネをかけ忘れて登校したエピソードだろう。
ここではるみは、メガネのない香樹に対し、「…あれっ …誰だっけ? 転校生?」と、ジョークとしては定番レベルの台詞を口にするのだが、このエピソードが恐ろしいのは、われわれ読者の目から見ても、そのキャラクターが香樹であるとは判別不可能な点である。
ひとつのパーツが抜けただけで見分けがつかなくなってしまうほどに、最小限の記号によって成立/描き分けられているということ。現に、これが本当に香樹なのかどうか自信を持てないわれわれが、ペンを手に取り、この「自称・香樹」の目元にメガネを描き足してみようものなら、そこにはまたたくまに坂本香樹が立ち現れる(そのため本書は保存用と落書き用の2冊を買う必要があるだろう)。

このように、この第5巻はミニマリズムがよりいっそう突き詰められていくと同時に、しかし、『はるみねーしょん』史上最大のクリティカルポイントとして、後世に語り継がれるだろう激動の1冊でもある。
なんと驚くなかれ、まず第一に、これまで季節はめぐれど1年生であったはるみたち3人が、唐突に2年生へと進級する。
第二に、進級に合わせユキの妹・アキが同じ高校に入学し、1冊のうち合計8コマにもわたり登場する。
予想だにしなかった圧倒的スペクタクル。
この急展開を受け、いったい『はるみねーしょん』という作品はどんな変化を遂げたか。ぜひ実際に購読することで、各人が「とくに何も変わってなかった」という結論を導いてほしい。



<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」

単行本情報

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