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『ハルモヤさん』第1巻 まんしゅうきつこ 【日刊マンガガイド】

2015/05/08


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『ハルモヤさん』第1巻
まんしゅうきつこ 新潮社 \580+税
(2015年4月15日発売)


一度耳にしたら忘れられない! キョーレツすぎるペンネームとおもしろすぎるセンスで話題のまんしゅうきつこの初単行本。

彼女が世に出るキッカケとなったブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」は、自身の過去の出来事を暴露したエッセイ+イラストノンフィクションだったが、こちらは完全フィクションで、彼女に関する予備知識がなくとも楽しめる純然たる「マンガ作品」だ。
(もっとも、予備知識がなければ、まんしゅうきつこなんて名前の人の本は買わないだろうが……)

「ハルモヤさん」こと春靄きの子は30歳・処女。
東京行きのオレンジと緑の電車を横目に埼玉県熊谷市の実家で暮らしている。
ほとんど争いごともなく、居心地がいいため、薄給にもかかわらず図書館の嘱託職員として働いているが、最近、ここが竜宮城(!)であることに気づいてしまったハルモヤさん。このままじゃダメだとわかっているけど、嫌なことがおきるとすぐ眠くなってしまって――。

「体はおばさん、心はコドモ」というキャッチコピーには、うまい!と感心しつつも戦慄せずにいられない!
たとえ彼氏(彼女)がいて、都会で憧れの職業についていたとしても、「大人たるもの、どんなに嫌なことも笑顔でうけ流して、適度に気の効いた冗談を交えつつ、誰とでも円滑にコミュニケーションを築くべし」といった価値観が主流となっている現代社会においては、そうふる舞えない人は多かれ少なかれ、生き辛さを抱えてしまうわけで、彼女のダメっぷりに共感してしまう人はきっと少なくないはずだ。

そんな切実なテーマを飄々とユーモラスな絵と語り口でホッコリ読ませる、絶妙極まりないセンスは、ブログ同様、もはや名人芸。
このまま「永遠のおばさんコドモ」の日常雑記として、大いなるマンネリズム的に続いてゆくのかなーと思いきや、なんと2巻ではハルモヤさんと大橋くんが急接近!? という意外な展開も期待できそうで、ダウナー&ホッコリだけでは終わらなさそう!?

まんしゅうファンは同時発売の『アル中わんだーらんど』もあわせて、必読だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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