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『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』 ドリヤス工場 【日刊マンガガイド】

2015/10/26


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』


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『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
ドリヤス工場 リイド社 ¥850+税
(2015年9月11日発売)


妖怪マンガの超大御所・水木しげる。
……とはまったく関係ないが、水木しげる画風を使いこなし(絵柄だけではない、コマ割りから細かい演出の隅々まで完璧に!)、人気アニメのパロディ同人誌やオリジナル商業作品を執筆して注目を集める作家・ドリヤス工場。
この異才が「トーチweb」で連載した作品が単行本化された。

内容はタイトルどおり。
文学史上とても知名度が高く、それでいて今では実際ふれる機会が少なくなりがちな名作を短編マンガの形でさくさく読ませてくれるものだ。

太宰治『人間失格』にはじまり、田山花袋『蒲団』、魯迅『阿Q正伝』、エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』……と和洋を問わぬラインナップ25編、プラス描き下ろし1作で構成。
驚くべきはどんな大長編でも核心を損なわず短編に仕立てるダイジェスト編集の手腕で、まさか『ドグラ・マグラ』が16Pぽっきりでおさまるとは! あの複雑怪奇なストーリーをよくもまあ。

ドリヤス工場のこれまでのパロディ同人誌や、「月刊Comic REX」で連載された異能バトル『あやかし古書庫と少女の魅宝』は、水木しげる画風とジャンル基盤のミスマッチを突き抜ける、一種の倒錯、酩酊感を楽しむ側面が強い。
それに対して、今回の文学マンガの読み味はとても素直だ。
もともと本家の水木しげる作品も『東海道四谷怪談』『方丈記』を題にしたマンガがあったり、『神秘家列伝』では妖怪学をとっかかりにコナン・ドイルや宮武外骨を紹介したりと、人文系の趣が強い。
その水木の画風で文学作品をあらわせば、素直になじむのは道理だろう。

しかも、すぐれた文学作品はしばしば、怪異や幻想をあつかうことがある。

『山月記』で人界との別れにむせび泣く、虎に変化してしまった詩人。
『桜の木の満開の下』で桜の花吹雪に狂気にさそわれた男が幻視する鬼女。
また『イワンのばか』『ラプンツェル』『雪の女王』のような童話・寓話も、それぞれ人外の存在と人間が接する瞬間に妖怪的なものが立ちのぼる。
そりゃ水木しげる画風と相性はいいってものだ。

その相性よさゆえに、水木しげる画風のフィルターをとおして文学作品の内容を追いかけるうち、読んでるこちらの視点がぐるっとひっくり返る瞬間がある。
どういうことかというと、本来のコンセプトとは順番が逆に、“有名文学をとおして水木しげる画風の持ち味とは何か学ぶことができる”マンガにもなっているのだ。

本書は、これをきっかけに文学作品へ入門していってほしいという狙いを充分に果たしつつ、同時に、水木しげるのマンガへ入門するとっかかりとしてもよく機能しているといえよう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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