『THE魔王さま』
石原まこちん 集英社 \400+税
（2015年6月4日発売）

伝説的な勇者と魔王の戦いから千年。
新たな戦いにそなえ、魔王の息子は毎晩ファミレスで作戦会議を続け、勇者の末裔は村でゴロゴロとニート生活を満喫していた……。

『THE 3名様』の石原まこちんが「少年ジャンプ＋」で手がけた新作は、初期ドラクエ的ファミコンRPGの世界観を、“まこちん節”でリブートした異色ギャグ作品。

魔王軍団も勇者の末裔も延々とダベり続けて「冒険」しないあたり、作品イメージはそのまま『３名様』のRPG版なのだが、メイン主人公である勇者の名前が「いいいい」という衝撃設定を筆頭に（ちなみに伝説の勇者の名前は「ああああ」）、偏愛と偏見に満ちたファミコンギャグの精度がやたら高い！

「ダンジョンのBGMどうするか問題」「セーブポイントなんで用意するの問題」「雑魚モンスター雇うのやめようか問題」等々、毎回のニッチすぎるテーマはもちろん、2Dマップ風の村を横から強引に描写する背景のビジュアルや、ゲーム画面っぽい黒抜きフキダシなど、マンガ構造にまで手を入れるメタパロディも満載。
『３名様』とも別ベクトルのマニアックなユーモアが随所に散りばめられていて、あらためて著者の作風のシャープさとファミコン批評眼（？）の的確さを実感してしまった。

主人公の名前が「いいいい」ってとこでピクッとした人、読んだほうがいいですよ！

＜文・大西祥平＞
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』（洋泉社）、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』（青林工藝舎）など。「映画秘宝」（洋泉社）誌ほかで連載中。