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『ワールドトリガー』第14巻 葦原大介 【日刊マンガガイド】

2016/04/06


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ワールドトリガー』


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『ワールドトリガー』第14巻
葦原大介 集英社 ¥400+税
(2016年3月4日発売)


突如として異次元への「門(ゲート)」が開き、異世界の侵略者「近界民(ネイバー)」が三門市を襲撃。近界民への対抗組織である界境防衛機関「ボーダー」が事態を沈静化し、防衛体制を築いた。

それから4年、ボーダーによって平穏が続いていた三門市。
ボーダー訓練生で中学3年生の三雲修(みくも・おさむ)が、「門の向こうの世界から来た」という謎の転校生・空閑遊真(くが・ゆうま)と出会うことから物語は始まる。

修、遊真、修の幼なじみ・雨取千佳(あまとり・ちか)の3人は、ボーダー玉狛支部に所属することに。
しかしある日、近界最大級の軍事国家であり「神の国」と呼ばれるアフトクラトルによる大規模侵攻が始まる。
この第二次大規模侵攻をきっかけに修ら3人は三雲隊を結成し、それぞれの想いを叶えるため、近界遠征へのメンバーになることを目指す。

第14巻では三雲隊含めた各隊員の鍛錬や、より強くなるために何をすべきか、何をしたいと思うのかが描かれている。

……長々とあらすじを書いてしまったが、では、『ワールドトリガー』はいったいなんの物語なのか?
それは「持たざる者のお話」だ。

主人公・三雲修はトリオン量も少ない、戦闘能力も低い。遊真や千佳はもちろんほかの隊員と比較しても、はっきりいえばきわだつ能力の持ち主ではない。
唯一の武器は仲間の強さや特徴を理解し、それを戦術に活かす能力だが、それもまだ発展途上のものだ。

少年マンガ的文法でいえば、最初は弱かった主人公は様々な戦いや鍛錬をへて、何か大きな必殺技を習得し“なんだかこいつ、やりおるぞ!”となってもいい頃だ。
それでも、修はこの作品のキャラクターのなかで一貫して持たざる者のまま。そのなかで自分が何をするべきか、どうすれば仲間全員の想いを叶えられるかを考え続けている。
この姿は、ほかの隊員や仲間に変化をもたらし、戦況だけでなくより大きなものを変化させるものになっている。

このまま修が持たざる者のままで物語が進展するのか、彼が大きな強みを獲得していくのか、どちらに転んでも興味深い。

もうひとつ、この作品に根強いファンがいるのは葦原マジックも理由だろう。
少年マンガ的文法でいえば(2回目)、弱いと思っていた主人公がじつはこんな能力を持っていた! など予想外の設定が備わっていることも。

だが、葦原作品にはそれがない。

彼らがひとつを得るために、どんなことを考え何をしたかが描かれ、そしていざ本番、それを活かせるのか──ここに高まりを感じる。
一見予想外の能力に見えても、じつはそれまでの作中でひっそりとそれが描かれていたり、きちんとほのめかされ(察しのよい読者はここに気づく)、読み返してみると合点がいく。

これは伏線とは異なる。きっと隠していないのだ。気づく人は、ただ気づく。
気づいてなくても、あとからすべての解がページのなかから得られる。
私はこれを葦原マジックと呼ぶ。

第14巻と同時発売された『ワールドトリガー オフィシャルデータブック BORDER BRIEFING FILE』、略してBBFの情報量は圧巻だ。
また、単行本を紙で購入した人はカバーを外してみることもお忘れなく。

『ワートリ』はいいぞ。



<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
ブログ「自分です。」

単行本情報

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