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『ラストマン』 第3巻 バラック、バスティアン・ヴィヴェス、ミカエル・サンラヴィル 【日刊マンガガイド】

2017/01/11


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ラストマン』


LASTMAN_s03

『ラストマン』 第3巻
バラック、バスティアン・ヴィヴェス、ミカエル・サンラヴィル 飛鳥新社 ¥740+税
(2016年12月13日発売)


ヘンなマンガである。
マンガには文法が存在すると素直に信じているひとであれば、これはマンガのなりそこないだと、あっさり否定してしまうかもしれない。
コマ割りや構図、セリフの区切り方などが、ぼくたちの慣れ親しんだマンガとかなり似ていながら、どこか違っていて、しかもお話までムチャクチャである。

『ラストマン』は、バラック、バスティアン・ヴィヴェス、ミカエル・サンラヴィルという3人のフランス人作家が、『ドラゴンボール』やら『北斗の拳』やら『聖闘士星矢』やら、いろんな日本マンガをぶちこんでつくりあげた世界だ。

物語の始まりは「天下一武道会」。少年アドリアンは、パートナーが腹痛をおこしたため、楽しみにしていた大会に参加できない。
そこへ登場したのがあやしいオッサン、粗野で下品で、だけどすごく強い流れ者のリシャール。アドリアンの保護者であるシングルマザーの母親マリアンヌは、リシャールを警戒しながらも息子のためにしぶしぶこのペアを認める。

弱虫の少年がじつは秘めた力をもっていて、新しいパートナーの助言によってその才能を開花させ、大会を勝ち上がっていく……、みたいな展開になるかと思いきや、ここからが超展開。
アドリアンは、たしかに一瞬思わぬ力を見せつけるのだけど、それはさておき(さておいちゃうの!?)、アドリアンの拳の師匠は母親のマリアンヌのことが好きすぎておかしくなっちゃうし、リシャールはいつのまにか母親をくどきおとしていて、パーティの最中に2人で抜けだしてことにおよぶ。
しかもアドリアンにその現場をばっちり目撃されてしまう。

結局(けっこう)あっさりと大会は2人が優勝するのだけど、翌日リシャールはマリアンヌを捨てて出ていってしまい、2人で寝ていたはずのベッドはもぬけの殻。
マリアンヌは嘆き悲しむのかと思いきや、逆上して怒りもあらわに、息子とともにバイクで彼を追跡し始める(パン屋さんで働く心優しいママ、みたいな感じだったのに……)。これが第2巻までのお話だった。

最新第3巻で、物語はさらに不思議な世界に突入していく。
これまでの拳と魔法が支配する「ドラゴンボールのような世界」から、「まるでアキラに登場するバイク」に乗って2人がのりこむのは、機械文明が荒廃した「北斗の拳のような世界」だ。
そこでは暴力がはばをきかせ、裁判ですらショーと化し、弁護人同士が戦うことで審理はすすめられる。一度は捕まったマリアンヌがじつは強かったので(今のところ、たぶん最強)、みずから弁護を買ってでて、こちらの世界では存在しないはずの魔法を駆使しながら、敵をバッタバッタとなぎ倒すうちに、なんだか大乱闘になっていつのまにか無罪放免。

ファンタジーの世界から、SFの世界へと移行するこの第3巻は、おそらくこの作品を読む態度に変更をせまる重要な巻だ。
今まで慣れ親しんできたジャンルや世界線の境界をたもち続けることでは楽しめない。いや、そんな境界など初めからなかったのだ。
それに違反すると、「間違っている」ことになる、マンガの文法など存在していないのと同じように。

一見どれほど日本のマンガに似ていようとも、著者たちの違反は確信犯である。
それは、そもそもこの作品が左開き(洋書とおなじ向き)で作られていることからもあきらかだろう。
日本のマンガを中途半端にまねた、なりそこないのマンガなどではない。たしかな画力と生きているキャラクター、そして何よりもマンガを楽しむ気持ちにあふれている。

ぼくたちは西洋コンプレックスの裏返しとは違った方法でこの作品を受容できるだろうか。
日本の読者があたらしいマンガの可能性をうけいれ、それを楽しむ力をまだ持っているかどうか。
この作品にはぼくたちの「マンガ力」がためされているような気がしてならない。

『ラストマン』は全12巻で完結する予定で、本国フランスではすでに第9巻まで刊行されている。
日本でもぜひ最後まで翻訳してほしいものだ。



<文・野田謙介>
マンガ研究者、翻訳者。雑誌「Pen」の特集「世界のコミック大研究。」(阪急コミュニケーションズ、2007年、No.204)の企画・構成を手がける。訳書に、ティエリ・グルンステン『マンガのシステム――コマはなぜ物語になるのか』(青土社、2009年)、エマニュエル・ギベール『アランの戦争――アラン・イングラム・コープの回想録』(国書刊行会、2011年)。

単行本情報

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