複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「ケンタッキーおじさんこと、カーネル・サンダースがアメコミ化」について。
『カーネル・サンダース(時代を切り開いた世界の10人 レジェンド・ストーリー)』第2期 8巻
高木まさき(監修) 学研教育出版 ¥1600+税
(2014年3月28日発売)
カーネル・サンダースがアメコミ化ッ!?
アメリカでケンタッキー・フライドチキンがDCコミック(『スーパーマン』や『バットマン』で有名なレーベル)とコラボして、オリジナルのアメコミを発表した。
タイトルは『The Colonel of Two Worlds(ふたつの世界のカーネル)』。この作品にはザ・フラッシュとグリーンランタンが友情出演している。
ストーリーは、粗悪な安物のチキンを売る「悪のカーネル」をカーネル・サンダースが退治する勧善懲悪モノ。
「悪のカーネル」ってなんだよ!
もちろん広告効果を期待してのコラボなんだろうけど、お祭り感があって、なかなか楽しい企画となっている。
このような企業とマンガのコラボは、日本でもしばしば見られる。
養命酒と『ゴルゴ13』のように、記事広告でマンガキャラクターが商品を紹介するものが多く、作品本編に実名の商品や企業名が出てくることはあまり多くない。それは実現までのハードルが高いからだ。
ふだんのマンガ製作は「ネーム→編集チェック→作画」というワークフローで作業が進められるが、これに企業が絡む場合は「ネーム→編集チェック→【企業チェック】→作画」と工程がひと手間増える。週刊連載のペースでは、かなり作業がキツくなることは想像にかたくない。
しかし、それでもマンガ本編内で企業とのコラボを実現した作品も存在する。今回はそのような作品から、マンガに秘められた「あたらしいビジネスの可能性」を見ていこう。
……まあ、ぶっちゃけ、マンガでもっとお金を稼げないかしら、という下世話なスケベ心を丸出しでお送りします。ぐへへ。
『カノジョは嘘を愛しすぎてる』第11巻
青木琴美 小学館 ¥400+税
(2013年3月26日発売)
企業と大々的なタイアップをした作品といえば、青木琴美『カノジョは嘘を愛しすぎてる』だ。
作中の人気バンド・クリュードプレイがNTTドコモのCMに起用された、との設定でコラボを展開。
メンバーがドコモダケのキノコ帽子を被ったCMが本編で描かれた(コミックス第11巻収録)。同巻には、キャンペーン「応援学割」とコラボしたときにのショートマンガも収録されている。
「ワクドナルド」とか「オーソン」みたいな“それっぽい”企業名もマンガらしくて味があっていいけど、バンドや芸能界を題材にした作品だと、実名企業を使えると、そのバンドのメジャー感がグッと増すものだ。
これは企業にとっても、作品にとってもプラスになるウイン-ウインなコラボだ。
『インベスターZ』第9巻
三田紀房 講談社 ¥571+税
(2015年6月23日発売)
一風変わったところでは、三田紀房『インベスターZ』をあげたい。
主人公・財前孝史は投資部で株や企業について学んでいくが、ミドリムシで有名なバイオベンチャー「ユーグレナ」の代表・出雲充や「DMM」の会長・亀山敬司、“ホリエモン”こと堀江貴文など、企業家が次々と実名で作中に登場。
さながら「企業家スーパースター列伝」といった様相を呈している。
企業家たちはキャラが立ちまくっていて存在感があるので、マンガキャラとも対等に渡りあえるのだ。
『だがしかし』第3巻
コトヤマ 小学館 ¥429+税
(2015年10月16日発売)
コトヤマ『だがしかし』は、実家の駄菓子屋を継ぎたくない主人公・鹿田ココノツと、大手菓子会社の令嬢・枝垂ほたるが繰り広げる、駄菓子を題材にしたドタバタコメディ。
「ベビースターラーメン」とか「ブタメン」とか「ヨーグレット」などなど、数多くの駄菓子が実名で作中に登場する。
2016年1月からアニメ放映が決まっており、現在は「ベビースター」&「ブタメン」の新味を募集するコラボを展開中だ。
商品そのものがテーマなので、企業とコラボしやすい作品といえるだろう。
『だがしかし』のように実在の商品が作品内に登場する広告のあり方は、「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれている。アニメ『けいおん!』で登場キャラクターの使ったギターやヘッドフォン(いずれも実在商品)が、アニメ放映後に売り上げを伸ばした実例が示すように、昨今にわかに注目を集めている広告のあり方だ。
プロダクト・プレイスメントは映画業界では古くから活用されており、今年30周年を迎えた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、ロレインがマーティを「カルバン・クライン」と呼ぶ(下着のブランド名を本人の名前と勘違い)あたりも、巧妙な仕掛けといえるだろう。
『ゆでたまごのリアル超人伝説』
ゆでたまご 宝島社 ¥780+税
マンガ業界におけるプロダクト・プレイスメントの先駆者といえば、ゆでたまご『キン肉マン』だ。
キン肉マン生誕29周年記念出版『肉萬 ~キン肉マン萬之書~』によると、連載開始当初の『キン肉マン』には森永がスポンサーとしてついてくれたという。
「森永の偉い方のお子さんが『キン肉マン』のファンだというので「もし森永の商品をマンガに出してくれたら、広告料を払いますよ」とご提案いただいたんですよ」(前掲書より抜粋)
このような理由で『キン肉マン』の序盤には、「森永ココア」や「ポテロング」といった森永製品がひんぱんに登場したのである。
そのへんは新書『ゆでたまごのリアル超人伝説』にも、くわしく書いてあるのでよかったら読んでみてくれ(上記画像をクリックだ)!
デビューしたての新人にお金を出すのは、宣伝効果を期待するというよりも、有望な若手を育てようとする旦那気質があればこそ、ではないだろうか。
そして森永は『キン肉マン』アニメ化の際にもスポンサーになっている。
ゆでたまご先生と森永の関係は現在も続いており、2014年には「森永たっぷりプリン」と『キン肉マン』のコラボ商品が発売された。まさに作者と企業による友情のマッスル・ドッキングである。
マンガというのは映画や小説とは異なり、作品の「打ち切り」が存在する世界だ。
映画や小説は、世間的な評判がよくない作品であっても、最後まで観る/読むことはできる。しかしマンガの場合は、打ち切られたらそれまで。優れた作品であっても、コミックスの売り上げが芳しくなければ、2巻以降が刊行されなかったり、連載が打ち切られてしまう。
作者と読者がともに満足できるような「結末」を迎えられるかどうかは、実際のところ、おカネの問題でもあるわけだ。まさにマンガは「読者が支えるもの」。
だから「あたらしいビジネスの可能性」なんて言うとうさん臭いけど、ひとつでも多くの作品が「幸福な結末」を迎えるために、「読者が買い支える」のを扶助するような道筋がもう少しあってもいいのではないでしょうか。
今回はマジメな話になりましたが、要は「俺の好きなマンガ、頼むから続いてくれ!」なのです。