『ホクサイと飯さえあれば』第1巻
鈴木小波 講談社 \602+税
(2015年4月6日発売)
『ホクサイと飯さえあれば』は、独特のタッチが印象に残る寓話集『燐寸少女』が話題の、鈴木小波による料理マンガ。
2013年に刊行された『ホクサイと飯』の8年前のエピソードを描く。
主人公は、まだ漫画家になる前の上京したての女子大生「山田ブン」こと山田文子(あやこ)。
お供のしゃべるぬいぐるみ(?)のホクサイと一緒に、北千住にある家賃5万の古家でひとり暮らしを始めた……。
炊飯器のない新居で空き缶を使っての即席ご飯炊き、川原で卵黄と酢が入ったタッパーを思い切りふってマヨネーズ作り、魔法瓶におかゆと麹を入れて8時間待つと完成する甘酒。
どれも豪華な料理ではないが、身近な素材や道具を利用し、手間ひまかけて作っていく。
おもしろいことに、ごはんを食べて「おいしい~!」なんて身もだえする、ありがちなシーンは存在しない。
おいしい、まずいではなく、料理を作っている時間そのものが素敵で、大切なものだというメッセージが伝わってくる。
内容的には日常系だが、水墨画を連想させる黒がひきたつビジュアルと、謎の存在・ホクサイが異彩を放つ。
ファンタジー的と言おうか、現実と虚構世界の狭間に浮かぶかのような、どこか不思議な感覚をおぼえる。
そういえば料理だって、材料を変化させ、周囲の人々の心を満たす、日常に溶けこむ身近な魔法だ。
そんな意図も作者にはあるのかもしれない。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」でファンタジー評を連載中。
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