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【インタビュー】渡辺ペコ『おふろどうぞ』&『1122』リアルな男女関係を描きだす秘訣は、「発言小町」のチェック!?

2017/11/22


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

渡辺ペコ先生が「このマンガがすごい!WEB」に初登場!

一子(いちこ)と二也(おとや)は、子どもがいない結婚7年目の仲よし夫婦。一子の性欲が「凪」のため、セックスレス状態の2人が選んだのは「夫婦公認不倫」。しかし、公認の恋人・美月との恋に夢中になり始めた二也に対し、一子のなかにモヤモヤした感情が渦巻き始めて――。

「夫婦」の奥深さを描き、連載開始当初から注目を集めた『1122』。その2巻がついに11月22日に発売されます。渡辺ペコ先生といえば、昨年刊行の『おふろどうぞ』が2016年5月の「このマンガがすごい!」でも2位にランクインし、作品を追いつづけているファンも多い作家さん。そこで、今回は連載中の作品はもちろん、先生が影響を受けたマンガについてもじっくりお話を伺いました。

1122_02

『1122』 第2巻
渡辺ペコ 講談社 ¥570+税
(2017年11月22日発売)


発言小町の記事をすべて見ていた時期があります(笑)

――『1122』の2巻、読ませていただきました。なんでもオープンにしてきた一子と二也の間にとうとう秘密が……今日はそのあたりもじっくりお伺いできればと思います。まずは本サイトへのご登場は初めてということで、企画の経緯から教えていただけますか?

渡辺  産後、「モーニング・ツー」での連載が前作『にこたま』から時間があいたこともあり、担当さんと相談をして、今回はある程度、自分の感覚で描けて、ずっと関心があった夫婦や家族のことをテーマにしようと思ったんです。このマンガには不倫も含まれるんですけど、そこはあくまで夫婦のなかに含まれる問題として描きたいなと。

――不倫というと、だれかがスタンドプレーに走ってドロドロの展開……というパターンが思い浮かびますが、本作に登場する一子たちにしろ、美月にしろ、みんな相手のことを考えていますよね。

渡辺  そうですね。性格だと思うんですけど、私自身がすごくイヤな人とか利己的な人から逃げてしまうところがあるんです。それは描く者としては弱点だと思ってますが。ただ、邪悪な人ではなくても、人はその時の状態や状況で行動が制御できなくなったりおかしくなる、そのあたりは描いていきたいと思います。

――そういえば2巻には、一子と二也が久しぶりに甘い雰囲気になった時に、ついいわなくてもいいことをいってしまうシーンが描かれています。あとあと残るモヤモヤとした澱を掬い取るのが本当にお上手だなと思うのですが、こういった感情やエピソードはどうやってストックなさっているのでしょう?

ふいに訪れる「ザラ」っとした感情がリアルに描き出されたシーン。

ふいに訪れる「ザラ」っとした感情がリアルに描き出されたシーン。

渡辺  意識のうえでも意識下でも、人それぞれに何かしら心に残ってしまうことがあると思います。自分の話も入っているでしょうし、人から聞いた話もありますし、そういったものをつなげたり、混ぜたりしながら作っています。

――では常にメモを取ったりなさっているわけではない?

渡辺  はい。でも、セックスレスの記事とかブログをめちゃくちゃ読んでいた時期があって、気になったものは取っておいたり、ブックマークしたりしていました。統計的に調べた記事が好きで。

――特にご覧になっていたサイトはありますか?

渡辺  今は見ていませんが、1年ぐらい前に「発言小町」にあがってきた記事はすべて見てるんじゃないかという時期がありました(笑)。読売新聞の記者の方がレスのトピを立ち上げられた時、皆さん喧々諤々でかなり感情的な長いトピになったんですけど、その方がすごく冷静に場をさばいていたのが印象に残っています。毎月見ているわけではないんですけど、「婦人公論」の記事も骨太なところが好みです。

――「婦人公論」の記事は濃厚そうですね。

渡辺  そうですね。わりと自省的なものが多かった気がします。ちょっと別の話かもしれないですけど私、何年か不妊治療をしていたんです。その時、不妊治療中の人のブログもよく見ていたんですが、そこにセックスレスが絡んでくることも多くて。マンガとしては「不倫をしている夫が憎い」「こんなに好きなのに」という流れはシンプルでわかりやすいですが、レスというのは単にセックスの有無ではなく、夫婦の問題の表層のひとつというか。自分自身の「子どもを持ちたい」という欲求がどこからきているのかも含めて、性と生殖についてはずっと答えが出ていないです。

秘密を持った仲良し夫婦の関係性は?

――ご自身の一連の関心ごとが繋がって生まれた連載なんですね。ところで今回、一子の心の声を代弁する「インナーいちこ」が登場します。

2巻で登場するインナー一子に、本人はどう向きあっていくのか

2巻で登場するインナー一子に、本人はどう向きあっていくのか

渡辺  はい。唐突ですよね……。ただ、秘密ということに興味があって。性格にもよると思うんですけど、自分自身の問題や家族が抱えているものについて、親しい友人にあらかた話せるタイプの人と、「これはいえるけど、あれはいえない」って人がいると思うんです。一子は基本的には抱えるタイプとして描いていて、そうするとどうしてもモノローグが多くなってしまうんですね。それだと単調になってしまうので。

――今まで「夫婦公認不倫」を平気だと思っていた一子が、じつは本当の気持ちを抑圧していて、それが外にあふれ出たのかなと感じました。

渡辺  インナーチャイルドとはちょっと違いますけど、心の声のなかでも本音に近いところというか、そこを別のベクトルで出せたらと思って描いてみました。

――2巻でとうとう一子は二也に秘密を持ちます。世間の夫婦間には多少なりとも秘密があると思うのですが、もともとこの2人の間には秘密がないという設定でした。その2人に秘密ができたとき、関係性がどう変わっていくのかとても気になります。

渡辺  “なんでも話しあえる仲良し夫婦”という設定ですが、家族とはいえ他人なので、いっさい秘密を持たない状態を続けていくのはいびつだし、難しいと思うんです。秘密とまではいわないまでも、それぞれに自分の世界があってもいいと私は思っていて。ですから、2人が明かしきれないものを持つのは自然なことだし、それによってバランスが変わっていくと思いますし、そこが描けたらいいなと思っています。

――女性用風俗のお話も出てきますね。

渡辺  そのあたりは、聞いたことがある話をもとに、あまり取材をしないで描いています。ファンタジーにしたほうがいいのかなと思って。風俗って男性のためにある場合が多いですけど、もし自分が男性だったらどうかな?ということも以前から想像することがあって。楽しみにするのか、うしろめたさを感じるのか、家族や子どもがいたらどうするのかなとか。で、総合すると、自分だったら行くんじゃないかなと。そういうことを想像する一方で、女性にとっても発散の形というか、コミュニケーションの形として、そういうものがあってもいいのかなと思ったりしています。

一子が訪れたお店には、「コシノジュンコ」風の美魔女が……。

一子が訪れたお店には、「コシノジュンコ」風の美魔女が……。

――たしかに、男女関係なく「男性の性欲は解消されるべき」と思っている方は多いですが、同じように「女性の性欲は解消されるべき」と思っている方は少ないですよね。女性の性欲が泡となって消えるわけではないのに。

渡辺  ハードルが高いですよね。昔に比べると変わってきたと思いますけど、著名な方が不倫すると、やっぱり女性側が叩かれますし。子どもがいる父親が風俗に行ったとして、そこまで世間に糾弾されることはないと思うんですけど、母親がやったら相当イメージが悪いだろうなと思います。

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