スパンの長い結婚生活はズレが生まれて当然
――今回は不倫未遂のエピソードも収録されています。友人の五代と飲みに行った一子は、帰りに握手を交わし、「伝わる情報は多いものなんだな」と満たされた顔で帰路につきます。そのとき得られる「情報」とは、愛情とは別のものなのでしょうか?
渡辺 広義には愛情ですけど、親愛の情とか、ある程度長く仕事をしてきたことでの信頼とか、友人としての親しみやすさとか、プライベートな話にまつわる労りとか、いろいろな感情が混ざったものだと思います。そこに、少しの下心も混じっているかもしれない。それが、少し触れあうことで伝わることもあるのかなと。
――この2人のくだけたやり取りもいいですよね。
渡辺 乱暴になるということではなくて、年をとったり、付きあいが長くなると、お互いに使える言葉の範囲が広がりますよね。性的なまじわりはないけれど、そういうちょっとした言葉の使いかたや距離感で、コミュニケーションが深まることもあるのかなと思います。
――秘密を持った一子に対し、二也が初めて動揺するシーンも描かれています。「夫婦公認不倫」に対する認識が時間差でくるのもすごくおもしろいですね。
渡辺 ありがとうございます。恋愛はわりと男女の足並みが揃っていると思うのですが、結婚は生活しながらですし、スパンの長いものなので、ズレが出てくるのは当然ですよね。これは、いろんなところでお話しているんですけど、恋愛と結婚を別にしたほうがいいとまではいわないまでも、認識のズレにどう対処するか準備しておくことが大事なのかなと思います。お互い見過ごしていくのか、ぶつかっていくのか、夫婦によってやりかたは違うと思いますけど。
――そんなズレもある一方で、一子と二也が家族親戚といる時のお互いの立てかた、処しかたがとてもよくて、「いい夫婦だな」と思いながら読ませていただいています。
渡辺 「公認不倫」の夫婦の話というと、「この2人はなんで別れないの?」と聞かれることもあるのですが、わたしはお互いのホームグラウンドのなかでお互いを守ったり、尊重していくことはとても大事なことだと思っているんですね。ですから、お互いに敬意がないとか、どちらかが親や親戚間の問題で困っているのに見て見ぬふりをするとか、そういう話を発言小町とかで見聞きすると、「どうしてこの人たちは別れないんだろう?」と思うんです。でも、そこにはそれぞれの夫婦の事情があるわけですよね。物語としては地味な要素ですが、『1122』では別れずに契約を継続していきたいこの2人なりのそんな理由を描いていきたいと思っています。
――1巻で一子は「生まれた家も産んだ親も好きじゃない」と語っています。傷ついた少女時代を大人になって癒すことは難しいので、心の奥底に沈めるしかないわけですが、それが消えてなくなるわけではありません。しかし、このシーンで一子は二也から大きな安らぎを得ています。
渡辺 結婚は契約だとはいえ、そういう話を聞いてあげられるか、寄りそえるかどうかって大事ですよね。お互いのびのびやれるのが一番だと思うので。だけど、それができなかったり、余裕がない夫婦もいっぱいいると思いますし、常にそこは意識しながら描いていきたいなと思っています。
取材・構成:山脇麻生
■次回予告
次回のインタビューでは、『このマンガがすごい!2017』ランクイン作品『おふろどうぞ』のお話や、渡辺先生のルーツにまつわるお話など盛りだくさん!
インタビュー第2弾は11月27日(月)公開予定です! お楽しみに!