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入江喜和『たそがれたかこ』【前編】 更年期=第2の思春期をふんばる中年ヒロインに共感、涙、励まされる!

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2015/03/02


耳も遠くなった老母と暮らす45歳バツイチの主人公・たかこ。更年期にさしかかり、言いようのないむなしさから寝床で涙することも……。
人生に色をなくしていたたかこだが、ある日、ラジオでたまたま耳にしたバンド「ナスティインコ」のボーカル・谷在家光一の歌声に恋をする。
さらに超ポジティブなモテ中年の飲食店店主・美馬さんとの出会いで、人生が少しずつ前向きに――。

「生きづらさ」を抱えながらもふんばり、少しずつ変わろうとする主人公たかこ。 “中年女性”という異色のヒロインがゆっくり前に歩き出そうとがんばる姿は胸に突き刺さること間違いなし。連載開始から静かに話題となりじわじわと評判を高めてきた『たそがれたかこ』が、『このマンガがすごい!2015』のオンナ編第8位にランクイン! 世渡り上手とはほど遠い、不器用に生きる人にこそ届けたい大注目作が登場。

入江喜和

東京出身の女性漫画家。

1989年に「週刊モーニング」(講談社)にて『杯気分!肴姫』でデビュー。代表作に『のんちゃんのり弁』『昭和の男』『おかめ日和』など。現在、「BE・LOVE」(講談社)にて『たそがれたかこ』を連載中。夫は漫画家の新井英樹。

ブログ「キワ者便り」

『たそがれたかこ』第4巻は3月13日発売!

なんだかやりきれない……それでも健気にがんばる40代を描きたい!

――『たそがれたかこ』は、これまでの入江先生のイメージがガラリと変わる新機軸ともいえる作品ですね。

入江 じつは『おかめ日和』[注1]の次に何をやるか、まるで考えていなくて。『おかめ』の最終巻が出る際に、次回作のタイトルだけでも入れないと……と焦ってて。その時、担当さんが「今度は独身の中年ヒロインものでどうか」と提案してくれて、じゃあそれでいこうと見切り発車的に……。

――どんなふうにストーリーがかたまっていったのでしょうか。

入江 ヒントになったのは、同世代の友だちと久しぶりに会ったことです。『おかめ日和』の連載が終わって休みがちょっとだけあったので。そしたら、みんなじつにいろいろな事情を抱えて生きていて。介護とか子どものこととか、深刻な悩みを抱えてるんですけど、そのわりには東方神起[注2]の追っかけをやってる子が2人もいたりして(笑)。

――そこで、たかこが「ナスティインコ」のボーカル・光一くんにときめくという設定が生まれたんですね。

たまたま流れていたラジオを聴いたことで、たかこは忘れていたトキメキを思い出す。

たまたま流れていたラジオを聴いたことで、たかこは忘れていたトキメキを思い出す。

入江 あと、スーパーでいつも会うママ友が常に嵐を聴いてて、「相葉ちゃんがいないと生きていけない」なんて言ってたりするんですけど……なんだかそういう姿に打たれて。そういう憧れやときめきを支えに、日々がんばってるところがすごく愛おしいなと。かくいう自分も昔からバンドが好きなので。

――そういうリアルなところから出発しているんですね。

入江 ホントに何もネタを用意してなかったせいなんです。これまでは自分が描きたいタイプの人がいて、取材して描かせてもらったりしたこともあったんですが。そろそろ自分を描いたほうがいいんじゃないかと。なので、かなり“自分成分”が多いんです。中年女性が主人公のマンガで……不倫の恋とかではなくもっと身近な設定で、自分をもてあましたり、時にはみじめだったりやりきれない感じを、外から見て笑えるようなマンガにしたいなと。

――たかこはバツイチで、娘とは離れて暮らしていて。まだまだ元気な45歳、自由な中年のようで、同居している母親との葛藤があったり……という設定。読者にとってはかなり共感ポイントが多いと思います。すごく大きい問題を抱えてはいないけど、夜になると涙が出て、ふらっと外に出かけてしまう第1話のシーンなども。

あー……もう、読んでいて心が痛い……。がんばっているけど、がんばれなくなってしまう時ありますよね(泣)。

あー……もう、読んでいて心が痛い……。がんばっているけど、がんばれなくなってしまう時ありますよね(泣)。

入江 このあたりは、実在する場所なんです。

――あ、ロケハンに行かれてるんですね。

入江 私の生活圏内のお気に入りの場所なんです。森下と清澄白河の中間地点くらいですね。隅田川に沿っていくと、途中で川が急カーブしていて日本橋のほうが見渡せる気持ちのいい場所です。隅田川テラス[注3]という場所で、昼間は散歩したりマラソンしたりしてる人がたくさんいます。「ああ、もうあかん」という時は、無性に行きたくなる場所です。

――わぁ、行ってみたくなります。

入江 このへんも最近はビルだらけなんですけど。視界が開けてるというのが大事ですね。このあたりに行くと海のにおいがしてくるのもよくて、けっこう歩きにいったりしています。

――美馬さんのお店が、ちょっと石段を上ったところにあるのもいいですね。

入江 1巻の表紙がまさにそれです。実際には住宅やお店はない場所ではありますが。

お~!まさにこの風景!! 今にもたかこがひょっこり現れそう。

お~!まさにこの風景!! 今にもたかこがひょっこり現れそう。

――こんなお店が近所にポツンとあったらいいですよね。美馬さんのキャラもあいまってですが。

こじんまりとかわいらしい美馬さんのお店。随所に登場する料理もとってもおいしそう!

こじんまりとかわいらしい美馬さんのお店。随所に登場する料理もとってもおいしそう!

不思議イケメンおやじ・美馬さんのモデルは幼少時からのお気に入り俳優

入江 美馬さんはいい加減な感じでラクな人、というイメージです。はじめから「オレの言うこと真剣に聞いてほしくないんだよね」みたいなスタンスで。

――このキャラクターはどこから生まれたんですか? これまでの入江先生の定番とは違った“昭和な男”ですが。

このキラースマイルで数多くの女性をとりこにしてきた美馬さん。無邪気でかわいげのある中年とか無敵でしょ!

このキラースマイルで数多くの女性をとりこにしてきた美馬さん。無邪気でかわいげのある中年とか無敵でしょ!

入江 モデルは火野正平さん[注4]です。私、幼稚園の頃から火野正平さんが好きなんです。

――あ、たしかに似てますね!

入江 女性誌なので、ちょっと美形にしてますが。美女もブスも若い子もバアさんにも「いいよ〜おいでおいで」って言っちゃうような、無責任な感じがすごく好きなんですよ。

――今の声マネ、すごい似てましたね(笑)。しかし、幼稚園の頃からとは。

入江 その時すでに、この人の顔すごく好きだなって思ってて。通りすぎたあとは雑草も生えてこないような、なんでも食うんだろうなってところもすてきだなと思う。

――チャラいんじゃないですよね。純粋に人が好きなんだろうなと思わせる。

入江 人たらしというか。ああいう人に生まれたらラクそうだな、あんな人間に生まれたかったな、と思う憧れがあります。男性としてすてきだなと思うと同時に、自分もそうあれたらなと思う人。

――では、たかこが美馬さんに注ぐ視線は、入江先生から火野正平さんへのまなざしとほぼ同じと思っていいのでしょうか。

入江 そうですね。あ〜、なんだかめっちゃ恥ずかしいですね。かっこいいなと思うけど、恋愛対象じゃなくていい。私も相手にしてくれるのかな、でも相手にしてくれなくても見ているだけでなんとなくいいな、という……。

気の小ささや自信のなさがにじみ出てしまう人が好き

――美馬さんとの物語になるのかなと思いきや、今度はバンドのヴォーカル・光一くんに恋をするわけです。といっても、ラジオを通してですが。このあたりは、まさに入江先生ご自身やお友だちのリアル体験が反映されているわけですね?

早速ゲットしたCDを聞くたかこさん。45歳のたかこさんが、完全に恋する乙女と化しているところがかわいらしい。

早速ゲットしたCDを聞くたかこさん。45歳のたかこさんが、完全に恋する乙女と化しているところがかわいらしい。

入江 私、もう20年以上ずっとエレカシ[注5]が好きなんです!

――あっ、入江先生がエレカシ好きってすごくピンときます。

入江 え、そうですか。うれしいなぁ!

エレカシはたかこにとっての「ナスティインコ」と同じくらい、入江先生にとって特別な存在だという。

エレカシはたかこにとっての「ナスティインコ」と同じくらい、入江先生にとって特別な存在だという。

――私もほぼデビュー時からのファンなのでよくわかります。入江先生の描く昔気質な男性とシンクロしますよね。

入江 私、ミヤジ(※エレカシファンはボーカル・宮本浩次をこう呼ぶ)と同い年なんですよ! 昔のライブでは、女の子が「宮本さーん」とか叫ぶと、「うるせぇな」とか怒鳴られてましたよね。あれがシビレました。今は普通に盛り上がるライブですけど、初期の頃はすごくピリピリしてて。私もミヤジの顔が見たいけど、前のほうにいる時は目が合わないように下向いてたりしましたね。わぁ、うれしい、もっとエレカシの話しましょうよ〜(笑)。

――エレカシが登場した頃は、世の中バンドブーム。楽しげで派手なバンドがたくさん出てきたなか、ステージも何もかもまったく飾り気のないエレカシの存在は独特で鮮烈でしたね。歌詞が文語調っぽいところも新鮮でした。

入江 そこがたまらないんですよね。小学校の頃からの友だちとダンナがファンで、勧められたのがきっかけで。聴いたら一発で好きになったんです。で、好きになったらすぐにライブが観たくなって名古屋まで行きましたっけ。 本当にミヤジが大好きで、仕事場には恥ずかしいくらいポスターとかカレンダーとか貼ってあります。

――じゃあ、入江先生にとって揺るぎないナンバーワンですね。

入江 はい! ……なんですけど、『たかこ』を描き始めるちょっと前からクリープハイプ[注6]の尾崎世界観(ボーカル)も好きになりました。ちょっと、昔のミヤジと共通する雰囲気を感じるんですよ。じつは、彼のラジオ番組を聞いたのがきっかけで。

――たかこと光一くんの出会いと同じですね!

入江 昔からミュージシャンのラジオを聴くのは好きなんです。高校生の時は坂本龍一さん[注7]の番組に夢中になってたり。この10年くらいだと「真心ブラザース」のYO-KING(倉持陽一)さん[注8]、「サンボマスター」の山ちゃん(山口隆)[注9]、トータス松本さん[注10]とか。尾崎くんの番組を聞いたのはたまたまで。「たかこ」とまったく同じで「今日が2回目です」っていう日に聞いたんです。「2回目ですごく緊張してます」なんて言ってて。

光一くんのぎこちないトークが、暗い顔をしていたたかこを笑顔にさせた。連載開始から2話も終盤になって、たかこが笑ったのはこれが初めて。

光一くんのぎこちないトークが、暗い顔をしていたたかこを笑顔にさせた。連載開始から2話も終盤になって、たかこが笑ったのはこれが初めて。

――曲じゃなくてトークから入ったんですね。

入江 ラジオってすごく人間性が出ますからね。それで気になって、CDを買ってみたら大ハマリしたんです。以来、シングルもアルバムも発売日に買いにいってます。


  • 注1 『おかめ日和』 「BE・LOVE」(講談社)にて2005年から2013年にかけて連載されたマンガ。偏屈で頑固な旦那様にベタ惚れの「おかめな奥さん」やすこさんのほのぼのしつつ時々ピリ辛な毎日を描く。
  • 注2 東方神起 韓国出身の男性デュオ。2003年に結成。メンバーはユンホとチャンミン。韓国だけでなく中国や日本でも人気がある。
  • 注3 隅田川テラス 隅田川の両岸に沿って整備された親水テラスのことで、公園としても近隣住民に活用されている。
  • 注4 火野正平 俳優。芸名の火野正平は小説家・池波正太郎が名付け親。代表作に『国盗り物語』『必殺シリーズ』『極道の妻たち』など。近年ではNHK-BSプレミアム『にっぽん縦断こころ旅』で自転車にまたがり全国を旅している。私生活では非常なモテ男として有名で多くの女優と浮名を流し「芸能人プレイボーイの元祖」ともいわれた。
  • 注5 エレカシ 4人組ロックバンドで正式名称は「エレファントカシマシ」。1981年結成。男くさい無骨なロックが特徴。
  • 注6 クリープハイプ 4人組ロックバンド。2001年に結成、2012年にメジャーデビュー。ボーカルの尾崎世界観の作る独特の歌詞とハイトーンボイスが特徴。
  • 注7 坂本龍一 ミュージシャン、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、ピアニスト、俳優などさまざまな顔を持ち、その名は世界的に知られる。愛称は「教授」。近年では反原発活動にも力を入れている。
  • 注8 YO-KING(倉持陽一) ミュージシャン。本名の倉持陽一としても活動している。早稲田大学在学中に後輩の桜井秀俊と「真心ブラザーズ」を結成。現在は、ソロとバンドの両方で活動中。妻はJUDY AND MARYボーカルのYUKI。
  • 注9 サンボマスターの山ちゃん 3人組ロックバンド「サンボマスター」のボーカル山口隆のこと。パンクなサウンドのロックバンドのボーカルイメージをくつがえす、ぽっちゃりとした体系と親しみやすいルックスで大人気。福島県会津若松市出身ということで震災後、精力的に復興支援活動をしている。
  • 注10 トータス松本 ロックバンド「ウルフルズ」のボーカルとして有名なミュージシャン。俳優としても多くのドラマや映画に出演している。ソウルフルな歌声が特徴。芸名の「トータス」からもわかるように大の亀好き。

単行本情報

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