「Cham Jam」にはイメージモデルが存在する!?
――けっこう取材には行かれてるんですか?
平尾 取材はまったくしていません。今現在も、個人的に気になるアイドルの現場に行くのみですね。
――あ、でも現場には行ってるんですね。いわゆる「在宅派」ではないんですね。
平尾 現場によって特典会のやり方やルールが違うのがおもしろいので、今後はもっともっといろんな現場に行けるといいなと思っています。
なかには「地下なんだけどコスパが悪い」みたいな、接触に決められた秒数がかなり短いグループもあります。そういう場合、ファンの側も決められた時間内でいろんな工夫をして接触に臨むのですが、その姿に感銘を受けました。「ゆとりのある優しい接触よりドラマ性高いな!?」と、そのシステムをこっそりと参考にさせてもらっています。
――「Cham Jam」の「握手券1枚につき5秒」は、地下アイドルにしては短いんですね。現場では、何かおもしろいグッズとか特典はありました?
平尾 メガホンを買ってそれにサインをしてもらうという現場があったのですが、私は遠征組だったし、かさばるので、さすがにその特典は受けられませんでした(笑)。
――えりぴよさんはかなりエキセントリックですが、オタの分をわきまえている人ですね。だれか特定のモデルはいるのでしょうか?
平尾 モデルはいませんが、まわりにいるいろんな現場のオタクの子たちから少しずつエピソードを分けてもらって脚色して描いています
――その一方で、やりすぎると“迷惑オタ”と思われる危険性もありますよね?
平尾 わかりやすくフィクションにすることを心がけています。多少の誇張だと、本物の迷惑オタになりかねないので「ここはギャグですよ!!」と、わかりやすく描いているつもりではいます。
――それで、その、先生。
平尾 はい。
――舞菜が天使です。
平尾 ありがとうございます!(笑)
――舞菜を描く時に気をつけていることはなんでしょう?
平尾 舞菜は存在感を薄くしています。顔のつくりはほかのメンバーよりもすべて小ぶりで、手足が細く、わかりにくいかとは思いますが、ダンスもほかのメンバーより振りが小さいです。でも髪型は、私の思う一番アイドルらしい、ハーフツインです。
――舞菜は「Cham Jam」では目立たない存在です。グループのリーダーでセンター的な存在は、五十嵐れおですよね。れおは「マンガのヒロイン(舞菜)」よりも「アイドルグループのセンター」としての主役感が求められるわけじゃないですか。その「センターとしての説得力」を出すのには、かなり苦労されているんじゃないかと思ったのですが、いかがでしょうか?
平尾 れおだけは一番顔がかわいくなければいけないと思っているので、非常に難しいです。「とにかく顔を! アイドルらしく!」ということに一番気をつけています。性格としては気高いけれど脆いような、アイドルオタクの理想とする、最高のアイドルを描くことができていればいいな……と思うのですが、どうでしょうか。
――いや、すばらしいです! めちゃくちゃ魅力的ですよ。「Cham Jam」のメンバーには、具体的なモデルがいるんですか?
平尾 各キャラクターの性格は、話を進めやすいように、マンガ的に分かりやすく振りわけているのでモデルはいません。ただ、顔に関しては、なんとなく意識して描いているモデルはいます。れおは前田憂佳(元・スマイレージ)[注1]ちゃん。
――おお、ゆうかりん……。
平尾 眞妃は池田美優(モデル)ちゃん、優佳は飯窪春菜(モーニング娘。’17)ちゃん、ゆめりは長谷川愛里(元・乙女新党)ちゃん、舞菜は伊藤沙莉(女優)ちゃんを、なんとなく意識しています。似てはいませんが、なんとなく……。あとはツリ目要員の空音と、ロリ要員のあやです。
――「Cham Jam」の子たちの私服がすごくファッショナブルだと思うんですよ。そこでのキャラづけもあるとは思います。何か参考にしているんでしょうか?
平尾 ファッション誌を読むのが好きなので、メンバーごとにイメージしているブランドを決めて、そこで買っている服らしく見えるように描いています。
――平尾先生が好きになるのは、どんなタイプのアイドルでしょう?
平尾 妹系、幸薄い系です。運営からは推されにくく、本人はがんばっているのになぜか選抜に入れず、そのせいで自信を持てない子。ダンスの時に、指先がしなやかに動く子にハマってきました。
――それは……、舞菜ですね!?
平尾 そうです。舞菜はこれでもかと、私の好みにしています。実在するならば、絶対に推します。
――えりぴよさんのオタ友というか、れおのTOのくまささんについてお聞きします。カバー裏のイラストを見ると、くまささんはブログをやっているようですね。どんなブログをやってるんでしょう?
平尾 え! そんなところまで気付いてくださっているんですか!? すごい! くまささんはアイドルオタクの考える最高の良オタを描いているつもりなんです。
――最高の良オタ! たしかに男前な発言も多いですもんね。
平尾 だからくまささんのブログも、絶対に接触レポやファンサ自慢ではなく、れおのよかったところを書き連ねるだけのものですね。
――あのー、疲れた時や心の弱った時ほどアイドルにハマりやすいといいますよね。作中のえりぴよさんは、まさにそのクチだと思うんですが、平尾先生はその理由をどうお考えでしょうか?
平尾 いろんな考えがあるなかで、私のなかだけでの解釈なのですが、「猫がかわいい!」というのと同じ気持ちプラス多少の恋愛感情で、アイドルにハマってしまうものだと私は思っています。かわいくて好きな相手のことは見ていたいし、悲しい時には支えてもらいたいと思うのが当然だと思うのです。自然の摂理なのです……。
――連載前の企画段階と、2017年現在では、アイドルシーンを取り巻く状況も変化してきていると思います。そのことが作品に影響を及ぼしたりはしましたか?
平尾 地下には地下アイドルがまだまだたくさんいますし、いろんな種類のアイドルが存在するので、私のマンガのなかのアイドルはこれとして、扱うアイドル像への変化はありません。
――平尾先生にとっての「アイドル」とはずばりどんな存在でしょうか。
平尾 偶像崇拝であるのみ。すなわち宗教です。
――平尾アウリ先生、ありがとうございました!
- 注1 前田憂佳 「ハロー!プロジェクト」に所属するアイドルグループ「スマイレージ」の初期メンバー。2011年に卒業、芸能界を引退した。ちなみに「スマイレージ」は、2014年にグループ名を「アンジュルム」に改名し、現在も活動している。
取材・構成:加山竜司
平尾アウリ先生の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』も紹介している
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