日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『HaHa』
『HaHa』
押切蓮介 講談社 ¥680+税
(2016年1月22日発売)
2014年から2015年にかけて、漫画家人生最大の苦境に立たされた押切蓮介。
そんな彼がピンチをチャンスに活かすべく、創作のモチーフに抜擢したのは実の母だった。
押切蓮介、否、神崎良太(本名)の母といえば、『猫背を伸ばして』、『ピコピコ少年』などでもおなじみのキャラクター。
ガムテープで床のゴミをバンバン取りながら、息子のテリトリーに侵入してくるあの御母堂だ。
物語は1998年の良太(18歳)が、説教と下ネタが大好きなパワフル母を見ながら、「どう生きれば、こういう人になったのだろう」と疑問を抱くところから始まる。
思わず「お母さんはどんな青春時代を送っていたのですか」と訊ねる良太(偉大で畏怖の対象である母に対して、良太は常に敬語を使うのだ)。
その答えは……「お母さん、昔、スケ番だったのよ」。
衝撃的な母の青春。良太は「母の半生に関心を持ち、敬意を持って人生話に耳を傾けるのもひとつの孝行」ととらえ、“自分をこの世に生んだ人間の物語”をひもとき始める。
良太の母・亘江(のぶえ)の故郷は下関。旅館を経営する母・キヌヨと警察署長の父・多次郎の間に生まれた。
広々とした旅館ですくすくと育つ一方、尊大かつ傍若無人な父には大いに反発し、りっぱなスケ番に成長。
ケンカ三昧の日々を送るも、高校卒業後は自立して静岡のバスガイドとなる。
自分が生まれる前に亡くなった祖父母の話、初めて明かされる母の武勇伝や不運ネタの数々。
高校を卒業してバイトで糊口をしのぎつつ、漫画家への道を歩み始めた良太は、母の話から自分のルーツを見出していく。まさに「この祖母にしてこの母あり、この母にしてこの息子あり」なのだ。
「己の親の半生にあまりに無関心で、それどころか目を背けていた」と良太は回顧するが、ほとんどの“子ども”は彼同様に両親の半生など気にかけたこともないだろう。
うーむ、両親が健在なうちに、“親孝行プレイ”だと思って、じっくり昔話を聞いてみる機会も必要ですな。
読者へ向けて母から寄せられた直筆メッセージが、とても温かく、ジーンと胸に沁みます。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。