日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『推しが武道館にいってくれたら死ぬ』
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』第1巻
平尾アウリ 徳間書店 ¥620+税
(2016年2月13日発売)
重い、重すぎるよ、えりぴよさん(主人公のドルオタ女性)!
お金と時間、人生すべてつぎこんで、アイドルを推すの、流石に重すぎるよ!
「推し」とは、アイドルのなかでも、自分が特に応援している子のこと。
えりぴよさん(フリーター)は、岡山県の地下アイドル「ChamJam」のファン。
なかでも、少しおっとりしていて物静かな、舞菜一筋。単推し。
推しのために収入のすべてを貢ぎ、自分の服はジャージのみ。毎回呼吸をするように握手券付きCDを山のように買う。イベントは当然すべて参加、当然最前列。
さすがに、ファン仲間もいう。重い、と。
ここまでしているのに、なぜか彼女は、舞菜から塩対応(避けたり、そっけなく冷淡な対応をすること)。
それでも彼女は、舞菜の推しをやめない。なぜなら舞菜が好きだから。
自分に興味を持ってもらいたいわけじゃない。嫌いでもいい(つらいが)。
ただ、アイドルを頑張っている舞菜が好きなだけ。
関係者みんなが知っている、変わり者の名物ファン、えりぴよさん。
思いは純粋で、舞菜がいやがることがあったら申し訳ない、くらいの気持ちで応援している。
もっとも、「迷惑なんじゃないか」と「何もかも捧げたい」のバランスが取れていない。
彼女のために恐ろしい枚数の短冊を書いたり、その割にチェキ(いっしょにアイドルと撮る写真)で舞菜とめちゃくちゃ距離をおいたり。
どうにも奇行が目立つ。
現時点では、地下ドルオタの苦悩を、あるあるを含めて軽やかに描いている。
しかし、舞菜の気持ちが徐々にはっきりするにつれ、じつは2人は惹かれあっていた、という構図が見えてくる。
というか、お互い遠慮しすぎていて、コントのようなスレ違いを起こしている。
近づいていいのかどうか、距離感がうまくはかれない……というのは、百合作品の精神性にうってつけのバランス。
著者の『まんがの作り方』も百合的な感情を描いた作品だった。それよりも今回はコミカルで、えりぴよさんのトンチンカンな行動で笑いながら読める。
根底にある、ディスコミュニケーションの悩み。
2人の気持ちが通じあって、えりぴよさんと舞菜が正直に話しあえればベターなのだけど。
ただ、アイドルとして舞菜に輝いてほしいえりぴよさんの思いは、2人がいっしょにいられる時間が増える、という幸せと合致しない。
駆けずりまわって鼻血を出して応援しまくる、不器用なえりぴよさんのほうを、まずは応援したくなってしまう。
とりあえずジャージ以外の服を買ってくれませんかね。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」