日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『13月のゆうれい』
『13月のゆうれい』第2巻
高野雀 祥伝社 ¥680+税
(2017年3月8日発売)
『さよならガールフレンド』で注目を集めた新鋭・高野雀の最新作。
小さい頃から「女であること」に違和感を抱き続け、現在も合コンで男から「もっと可愛いの着ればいいのに」といわれるたび、殺意と失望を感じているネリ。
一方、双子のキリは「男なのにかわいい」といわれることに苦しみ続け、唯一女装している時は呪縛から解放される。
見た目は同じなのに「性」も「性格」も異なる彼らが「私たち本当は逆だったんじゃないかしら」と悩む姿は、なんとも皮肉でややこしいが、さらに高校時代、ゲイではないのに「女装したキリ」に密かに恋をしたキリの同級生・周防がネリとつきあうことになってーー。
そんなジェンダーに対する葛藤や迷いは、彼らほどではないにしても、だれもが多かれ少なかれ感じたことがあるはずなわけで。
だからこそ、キリと、キリがつきあうことになったネリの親友の愛佳との「肌って1ヵ月とかで全部入れ替わるらしいんだよね」「骨も3年単位で入れ替わるんだって」「てことは5年も経てば完全に新しい自分じゃん。夢がある!」という言葉には、目の前がぱっと開かれる思い。
「女らしさ」とか「男らしさ」とか「自分らしさ」とか、そんなのは実在しない「亡霊」でしかなくて、自ら呪いを断ち切ってみれば、世界は予測もしない可能性で満ちている。
なんら変わっていないようで、すがすがしい希望に満ちたエンディングが胸にしみる。
<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69