『さよならガールフレンド』
高野雀 祥伝社 \680+税
(2015年1月8日発売)
「あいも変わらず セミと緑がうるさい」
「ここは ねっとりとした緑のカンゴク」
残暑厳しい9月。『さよならガールフレンド』は、高校3年生・瀧本ちほのモノローグから始まる。
都会から来たらしい中年夫婦に「地元の方? ここはいいわねえ のんびりしてて」と話しかけられ、「のんびりに見えるのは あんたが休みだからだろ」と内心で毒づくちほ。
初っ端からぐっとくる「どんづまり感」だ。
彼女が住むところは、どこへ行くのにも原チャリが必要。
みんなが知り合いで、下世話なウワサ話はあっという間に広がる。同級生のほとんどはこの町から出ていくことを考えもしない。
平穏だが、のっぺりとした日常のつづく「田舎町」。
このマンガは、そんな日本じゅうどこにでもありそうな、地方都市にある田舎町の空気を、冒頭のような魅力的なモノローグや、原チャリで行くコンビニ、友だちとたまるスーパーのフードコート、暗闇のなかで唯一きらめいて見える工場など、ちほの日常描写を重ねることによって、見事にあらわしている。
ちほの感じる、鬱屈や閉塞感のリアルなことといったら!
進路選択に揺れ、鬱屈のたまるなか、ちほが出会うのが、ちほの彼氏の一晩だけの浮気相手で、みんなから「ビッチ先輩」と呼ばれる、金髪のヤンキー女子・田淵りな。
わりと勉強のできるちほが、自分とはまったくく違うビッチ先輩に惹かれてゆく「ガール・ミーツ・ガール」の物語なのだけれど、ちほとビッチ先輩、ふたりの関係が心地よい。
べたべたせず、むやみに踏みこむことはしない、絶妙な距離感。
なかなか描かれることのない、けれどたしかにある、「女同士のさりげない友情」が、最高なのだ。
永遠に続くように思われるかわり映えのしない日々も、振り返ればいっときのこと。2人の関係だって、ずっとつづくとは限らない。
変化を控えた高校3年生の9月から、ちほが卒業して町を出るまで。
そのいくつかのできごとを淡々と切り取ってみせる、たった70ページの中編なのに、読後感は軽いようで重く、けれど、ちほがそっと踏み出してゆく一歩に、ほのかな希望を感じさせられる。